東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

操体庵ゆかいや物語(3)

こんにちは、佐伯惟弘三日目のブログです。アメリカを離れ、操体を学びに東京・三軒茶屋へと旅だった私。そこに待ち受けていたものは、、、、、、


■粋な演出


突然ですが、私はNHK朝の連続小説「ちりとてちん」(福井・小浜の女子高生が上方落語に出会い、落語家になって行く泣き笑い人生)の大ファンです。


いずれ「ちりとてちん」のことも書いてみたいのですが、それはさておき、
このドラマの主人公・和田喜代美は、徒然亭草若の二番弟子・草々という強烈な個性の持ち主と出会い、結婚します。その草々とは、長身でもじゃもじゃ頭の、恐竜のような目をもつド迫力男。


私の友人に、この草々以上のド迫力男がいるのです。名を堂迫隆久といい、大学卒業後、草刈り十字軍という過酷な山仕事を行う集団に所属。京都の山奥のそのまた山奥の手作りログハウス・八角堂に住んでいました。結局私もこの集団に入り、彼とリーダーと私の三人共同生活が1年ほど続くのですが、、、、


彼は、ラグビーで鍛えた体力と明晰な頭脳の持ち主。酒を飲むとギョロとした大きな目がすわり、睨みつけたその姿は怒りに満ちた大魔神。その迫力たるや山をも動かす、、、、、と感じる程でした。


そんな彼も、3年間の山生活を終え、大阪で花博の駐車場で働き、その後、東京のコンピューター関連の会社に就職。今は、三児のパパとなり幸せな家庭を築いています。


随分、前置きが長くなりましたが、私は彼の家にアメリカから転がり込むことになりました。部屋を走り回る子ども達に、我が子を重ね合わせて見る私の目が、寂しそうに見えたのでしょう。彼は、三軒茶屋近辺の安いアパート情報を、コンピューターから検索し私に渡してくれました。有難いことです。ところが、なかなか簡単には見つかりません。


そして遂に、まだ住むところが決まらないまま、師匠となる三浦寛先生に会うこととなりました。


高鳴る胸を押さえながら、慣れない三軒茶屋を彷徨。
「そういえば、昔の彼女は三軒茶屋にすんでいたなあ〜。」
方向音痴の私は、相変わらずの脳天気。昔の彼女の家さえ記憶していません。


そんな私ですが、なぜかフラフラと引き寄せられるように白い建物に近づいていきました。漠然とした確信をもって。
「あっ〜、、、絶対ここだ!」
生まれて初めて、たった一度で目的の場所を探し当てることができました。いまだにあの時の不思議な感覚は、よく覚えています。20mほどの通路をコツコツと歩き、一番どんつきに#105の焦げ茶色をしたドア。


ドアの前には、杉の木の輪切りが置いてあり、黒いマジックで「生命あるものは、、、、、、」と書かれていました。その内容は忘れましたが、木にマジックで文字を書き、しかも玄関の前に堂々と置く事自体、普通ではありません。人の心に何らかの響きを与える芸術の領域です。


もっと感心したのは、目線よりやや低いドアの中央に、よれよれの名刺が、透明のテープで貼られていることでした。そこには、人体構造運動力学研究所 三浦寛
これを見た瞬間、何とも言えない安心感と、本物が醸し出す絶対的な自信をうけとることが出来ました。
「間違いない、この先生は!!」
アメリカにいるとき、三浦先生からお手紙を戴き、その文面と穏やかで才能のある文字を拝見したとき、100%の確信を得てはいたのですが、この「よれよれ名刺」で120%本物に出会えたことを確認したのでした。


広大なアメリカの田舎都市からやっとの思いで大都会・東京へ舞い戻り、たどり着いたのが、この小さな「よれよれ名刺」。
何という演出!
私は、温かく震えるような満足感に浸っていました。


ところが、先生はお留守のようで出てこられません。もうこうなったら、1時間でも2時間でも待つという覚悟が出来ていました。しばらくすると、お弟子さんらしき男性を携えた方が、突然私の目の前にあらわれ、ちらっと一瞥。その眼光の鋭いこと。
「あっ、、、この方だ、三浦先生は!」
それからは、ヘビににらまれたカエル状態で、ほとんど記憶がありません。たしか、近くのフレンチレストランに行ったような気がしますが、定かではありません。


次回、お会いできる日を決め、私は三軒茶屋をフラフラ歩き回っていたように思います。突然、尿意をもよおした為、近くにあったキャロットタワーに入り、トイレを探し始めました。3階か4階にエスカレーターで上っていった時、
「ああっ、佐伯さん!岩下さんは控え室にいるよ。」
大学時代の友人で、NHK地球大紀行のテーマ曲を作った吉川洋一郎氏が、受付係。てっきり私が、友人の舞踏家・岩下徹氏に会いに来たと思ったらしいのです。私は、ただトイレを探しに来ただけなのに、、、、


「おおっ〜、吉川君!トイレどこ?」


何とも、バツの悪い会話。
私の友人岩下徹は、山海塾という舞踏集団のメンバーで、たまたまキャロットタワーで公演があったらしいのです。彼とも、大学時代は生活を共にし、数多くパフォーマンスをやって来た間柄でした。そんな彼の公演を、東京に来て草々見ることが出来るなんて、、、しかも、全くの偶然に!


神様は、なかなか粋な演出がお好きなようです。
何か面白いことが、起こりそうな予感!?


(つづく)

佐伯 惟弘