東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

操体庵ゆかいや物語(7)

こんにちは、佐伯惟弘です。今日は、私が担当するブログ週間の最終日です。昨日は、10数ページの長編になってしまいましたので、今回は先日の臨床体験を、短めにまとめてみようと思います。


<渦状波>


クライアントは、52才の女性Aさん。昼間は西陣の帯を紡ぎ、夜は皿洗いのアルバイトをしています。小柄でやや小太り。肩胛骨から腰背部にかけてヨロイを付けたように、後彎曲しています。Aさんが、操体を受けるのは今回初めて、指圧等の民間療法も全く受けたことが無いそうです。


過労のための腰痛。左体側を下の側臥位から、仰臥位になるとき、右腰に痛みが走るそうです。仰臥位になると、右胸郭がかなり膨隆し、下肢の左右差は1cm(左の方が長い)。


下肢全体が張り、どこを触っても圧痛点がありそうな様子。案の定、膝裏屈曲部には、数カ所、米粒半分くらいの硬結が横断して点在。腓腹筋を上から下へ触診すると、触れる指すべてに圧痛点を感じるくらいに張りがあります。そのため、逃避反応は極めて顕著。アゴを反らし、右に左に腰を捻転。左足は指を底屈位。


これだけの逃避反応があると、動診から動きの操法へと導くのが、常道だと思うのですが、何故か頚椎の左右圧痛点の渦状波から入りました。


仰臥位のまま、しばらく経過。
「あっ、、光が見える。ブルーとむらさきの、、、、」
「う〜ん、そうですか〜、、、、、、、、また、、、色が見えたら教えて下さい。」


「あっ、明るいみどり、、、赤も、、、横から流れています。今度は、からだの中心から広がっています。」
「ほっ〜、、、いいですねえ〜、、、」


「今度は、からだの中心に向かって流れています。」
しばらく経って、
「今は、黄色から少しずつ白っぽくなってきました。」
「なるほど〜、、、また、、変化があったら教えて下さい。」


「灰色っぽい白になって、真ん中で止まったまんまになりました。」
ある程度、光が見える現象がおさまってきたようです。


Aさんの頚椎から、触れている両手をゆっくりと離しました。今度は、頚椎から最も離れた足元に回り、約10分間、足趾の操法(足指のマッサージ)。
悲鳴を上げている腰からはなるべく遠回しに操法を行うのが原則です。そして、この操法の間に、クライアントのからだのメッセージを感じとることが肝心。
Aさんの左足第4、5指間に圧痛点がありました。


そこで、その圧痛点に再び、渦状波をすることにしました。すると、頚椎の渦状波と同様、Aさんの網膜には鮮やかな色の光が広がり、やがて白っぽくなり穏やかに治まってきました。その間、おおよそ10分。


今度は、渦状波を当てている私の右手の第3,4指はそのままにして、Aさんの右膝に私の左手をあてがい、皮膚の走行感覚のききわけをおこないました。
皮膚を上下、左右にゆっくり動かし、4方向の中で一番感じのよい動きを操法としておこないます。
これは、右手による点の渦状波と左手による面の渦状波を同時におこなう操法を試みたことになります。
すると今度は、光を感ずることはなく、ボ〜〜とするような気持ちの良さを感じるだけとの事でした。


ある程度落ち着いてきたので、再び膝裏屈曲部の触診をしてみました。随分硬結がとれ、下肢全体が軟らかくなっています。ただ左膝裏屈曲部外側に逃避反応をしめす硬結があるため、そこに渦状波をすることにしました。


今度は、黄色と白の光が飛び交い、次第に白っぽい光だけとなりやがて動かなくなっていったそうです。落ち着いたところで、施術終了。


しばらく休み、ゆっくり起きあがって戴こうとすると、Aさんがかつて体験したことのない「立ちくらみ」があるそうです。
もうしばらく休んでもらい、徐々に起きあがって戴きました。


今度は大丈夫です。下肢の左右差もなくなり、随分足が軽くなったとニコニコ顔。


このまま家に帰り、ゆっくりしていただければ良かったのですが、この日は、皿洗いのアルバイトがあるとのことで、急いで帰られました。


ところが、、、、、


翌日、座った状態から立ち上がると、ひどい立ちくらみ。
「クラクラして、びっくりしたわ!」


その翌日、
「ちょっと、良くなったけどまだある〜!」


そのまた翌日、
「だいぶよくなったけど、まだある〜!」


そこで、初診から4日後に再び施術をすることにしました。
整ったはずの下肢の左右差が再び1cmありました。膝裏屈曲部、腓腹筋を触診すると、「前回ほどじゃないけど、痛い!(本人の弁)」という程度の圧痛点が点在しています。
前回と同じ逃避反応も見られます。また、左体側を下の側臥位から、仰臥位になるとき、右腰にまだ少し痛みが走るそうです。


今回は、動診から入り動きの操法をおこなうつもりでしたが、どうしても右胸郭の膨隆が気になり、そこの最大圧痛点に渦状波、右肘内側に面の渦状波をおこなっていました。


「今は、どんな感じですか?」
「なんともありません、、、、」


渦状波の施術から7,8分後にこの返事。
色の光を、多少期待していたのですが、、、全く予想がはずれました。


ただ、圧痛点は消失し、右胸郭の膨隆もかなり治まっていました。


そこで、動診を通すことにしました。
仰臥位両膝1/2屈曲位で両足関節の背屈。
仰臥位両膝1/2屈曲位で両手、両足関節の背屈
仰臥位両膝1/2屈曲位で両足を操者の膝に乗せ、両膝傾倒
仰臥位両膝1/2屈曲位で両膝右傾倒の状態から、つま先を支点にして踵挙上
仰臥位両膝1/2屈曲位で両足先を操者両手で支え、宙に浮いた体勢から傾倒
仰臥位右膝1/2屈曲位で左足関節の底屈および、右膝面の渦状波


Aさんは動きの操法は、初めて。
しかし、力みもなく自然にやれ、快適感覚もききわけられました。納得するまで気持ちよさを味わい、脱力も自然にできました。
その後は、足趾の操法(足指のマッサージ)約10分間。


前回と同じ、左足第4、5指間に渦状波を。


「今は、どんな感じですか?」
「なんともありません、、、、」


最後に頚椎に渦状波。


「今度は、どうでしたか?」
「なんにもありません、、、私、光が見えると思ってたのに、、、、、一回だけ、青っぽい光が見えただけ。
それから、前のときは、最後には、光の中に黒い点が数個飛び回って、、、、こんなこと言ったら、変と思われるから黙っていたけど、、、、」
と前回は良かったのに、今回は全く面白くなかった、と言いたげでした。


そこで、
「あのね〜、Aさん。あまり反応がなくて光が見えなかったのは、かなり、からだのね、、、、バランスがよくなっている証拠なのよ。
そして、初めての施術のあと、ふらついたでしょ?あれはね〜、、、からだが経験したことない施術を受けたわけでしょう〜、、、、驚いて、過剰な反応をしたんだと思うよ。」
と告げました。ただ、あのふらつきは、施術後のアルバイトで、からだを動かし過ぎたのが原因かもしれません。


その後、膝裏屈曲部の硬結をチェック。かなりゆるみ、逃避反応はありません。下肢の左右差もなくなり、腰痛もありません。
この2回で施術は終了。後日、電話で様子を聞いてみましたが、ふらつきも腰痛もないとのことでした。


Aさんのケースは、典型的な渦状波による臨床だと思い記載しました。
 (完)


一週間のお付き合いどうも有り難うございました。
来週は、何と!!超人気漫画「グラップラー・バキ」のモデルにもなった、格闘家・平直行さんの登場です。         お楽しみに!!

佐伯 惟弘