東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

五官の五感③

聴覚、視覚に続いては、嗅覚と味覚を考察する。聴覚、視覚は左右一対の複数の器官であるが、嗅覚と味覚はともに、単独の器官でそれも顔面正中に座する。まず、嗅覚である鼻は、単独の器官といっても鼻孔は二つある。なぜ鼻の穴は二つあるのか。


ヨーガでは人間の一番外側の層が肉体で、その次に位置するのがエネルギー体であるが、肉体に血管があるのと同じように、エネルギー体にはナーディ(気道)という管があるといわれている。中央にスシュムナーという太い管の気道と、その左右にそれぞれ、イダー(月の気道)と、ピンガラ(太陽の気道)と呼ばれる管がある。鼻孔はこれらの気道の出入り口にあたり、ヨーガの呼吸法では、右の鼻孔(太陽の気道)と、左の鼻孔(月の気道)を使った陰陽のプラーナ(生命素)を取り入れる方法を説いている。また、アーユルヴェーダーやアロマティラピーでも嗅覚を利用した療法を知ることができる。
 

「感覚をききわける」ということから嗅覚を眺めると、まさに、良い匂いと、悪い臭いがききわけられるのではないだろうか。良い匂いとは香りでもある。香りというのは、脳に直接に刺激を及ぼすことが知られているが、味覚もこの嗅覚を経なければ、完成されないのだ。味覚は嗅覚があってこその感覚なのである。風邪を引いて熱がある時、食べ物の味がよくわからないという。舌がわからないのではなく、風邪を引いて鼻炎等の併発で嗅覚が利かないから、味わうことが難しくなるのだ。


ところで、嗅覚というのは鼻で匂って感覚するのであるが、呼吸の吸息時に匂うのである。嗅覚だけに限ったことではないが、実を言うと、感覚をききわけるというのは、すべて、吸息時であったことにお気づきだろうか。五つの器官の五つの感覚すべてがそうである。目で捉えて吸息で感覚する。耳で聴いて吸息で感覚する。鼻は、匂うと同時に感覚する唯一の器官。そして、口は吸息で食べて、美味を感覚できる。意識もそうである。愛する人を感じる時、目を閉じて吸息で感覚するのではないだろうか。

世間では、吐息にばかり力説している傾向がある。腹式呼吸を始めとする他の呼吸法においても、吐息の重要性ばかりが強調されている。「感覚」というききわけは、吸息に関わっており、吸息時の感覚に目を向けていただきたいと思う。



一度、茶道の茶室に誘っていただいたことがある。裏木戸のような小さな門をくぐり、茶室へと案内される。その途中、きれいに手入れされた庭園を通る。飛び石には、水打ちがされていて、その上を歩くのだ。好き勝手に歩けない。意識的に飛び石の上を一歩、一歩足を運ぶのである。足音に耳を傾けながら。庭がきれいだの、よく手入れされているだのと、無駄口を喋ってはならない。

茶室に近づいてくると、既に準備されている茶室から茶の香りが漂ってくる。ここで見逃してはならない。嗅覚を利かして香りを味わうのである。心地いい吸息の感覚である。いよいよ茶室に入るのだが、わざと入りにくくしてあるとしか思えないほどの狭さだ。屈んで入って履物を揃える。すべて意識的な動作が要求されるのである。

茶室に入ってから、茶のもてなしが始まるまでは、茶釜から聞こえてくる釜湯のゴトゴトという音に耳を傾けるのだ。これも見逃してはいけない。耳で味わうのである。そして極めて意識的な茶の作法を目にしながら、茶碗に入った茶を手にする。ここで茶の色を味わうのである。いきなり飲んではいけない。からだじゅうの感覚を総動員して、一番最後に舌で味わうのである。

感覚を味わうというのは、無意識な行動をしていては味わえないということを茶道は教えている。感覚というのは鉄と同じで鍛えれば光ってくるものではないだろうか。気づきを与えてくれた茶道の作法に感謝したい。


鼻の穴は二つの話に戻ろう。相性という言葉がある。肌が合う、合わないということもある。他人と接するときの感覚である。まだ会話もしていないのに相性なるものが明確になることがある。これが嗅覚に左右されているのだ。同じ匂いでも、人によって好みが違う。相性は相手の匂いであるといっても過言ではない(と、思っている)。

ここで匂いといっているのは体臭だけのことをいっているのではない。匂いには色んな種類がある。ポジティブな匂い。ネガティブな匂い。優しい匂い。悲しい匂い等、鼻で感覚している。もし、マスクでもして人と接したなら、相手のことがまるでわからなくなるはずだ。嗅覚を利かしているからこそ、相手の雰囲気や思いまでもが感じるとることができるのである。

何故、こんなことが可能なのか。それには鼻の穴二つが大きく貢献している。左の鼻孔は過去、右の鼻孔は未来、そして左右両方の鼻孔は現在に関わっている。過ぎ去った過去のことが思考にある時、左の鼻孔が、また将来のことを夢見たり、空想に耽っていると、右の鼻孔が呼吸の主人公になる。そして現在にとどまっていると左右両方の鼻孔が主人公となる。

ということは、自分の思考状態によっては、感覚も変わってしまうということになる。相手と対面しているのに自分はその場にいないなんてことにもなってくる。相手を感じて、吸息に注意を向けるようにすれば、嗅覚を活躍させることができる。

思いに耽っている時があれば、ちょっと鼻に意識して見つめてほしい。二つの鼻の穴の秘密を体感していただけるものと思っている。
 

この続きは次回のリレーブログで!


今回はモデムの故障があったりして、投稿に不手際をおかけしたことをお詫びします。


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