東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

五官の五感④

今週は兵庫県から日下が担当します。


前回ブログで眼・耳・鼻・舌と続けた最後は身です。身は皮膚感覚について話してみたい。


まず、皮膚を理解してみると、皮膚には殺菌力があり、皿の上に置いた菌はいつまでも元気でいるが、皮膚につけておくと数十分で死滅する。皮膚は外菌を防ぐだけではなく、外傷から護る働きもしている。皮膚脂腺から油を出し、体表一面を頑丈に保っている。また、からだの末端は重要な場所であるので爪を生やし、頭部においては脳・神経中枢部としての最重要箇所なので毛髪で防衛しているのである。体温調節も皮膚機能が独占している。ほかにも肺機能のような呼吸作用もあり、腎臓のような排泄作用もこなしている。


皮膚は外部にあり、容易に触ることができる。その刺激が内部に伝達されて血のめぐりをよくすることは誰でもご存じのことと思う。日光浴、風浴、水浴、摩擦、湿布、膏薬、あるいは吸玉、鍼灸、電気等みな皮膚による血循の法である。いわば皮膚刺激法である。
操体では皮膚の接触が刺激であってはならないと教える。皮膚そのものが感覚受容器であり、横紋筋系とは関与しない皮膚の動きがあるという。そして意識にないからだの情報が浮かび上がってくるのだと。つまり、皮膚の無意識に問いかけるとは運動痛や運動制限の不快がないと言っているのだ。画期的な真実を目の当たりにして、皮膚に対する興味がますます深まっていく内奥の自分を感じているこの頃である。


皮膚に関して、ある患者さんが来院したときの事。89歳になるおばあちゃんである。若い頃、姑さん同居していた苦労を知っているので嫁や孫たちと同居しないで一人暮らしをしているそうだ。毎日病院通いをしていて、週に2回は治療院でマッサージをしてもらっている。それが日課だと言っていた。
そんなある時、孫娘さんが地方ミニコミ誌に出している当院のCMを見て、おばあちゃんに勧めたのがきっかけでやってきたのが始まりであった。孫娘に付き添われながら、歩くのがやっとのことであったのを覚えている。毎週通っているマッサージは、やってもらっているときは気持がいいのだが、しばらく経つと腫れやアザになり、時には発熱などが起こるそうだ。それを心配した孫娘さんが連れて来たのであるが、背丈は1m60?あるそうで昔なら、かなり大柄な女性だったと思う。今は痩せていて細いのに、手足に少し浮腫みがある。
初回時は、動くのがとっても辛そうだったので、楽な姿勢の仰臥膝1/2屈曲位から足関節の皮膚の走行感覚をききわけてもらうことにした。驚いた! 皮膚のしわがすごい! するめのように伸びる。逆に動かすとあまり伸びない。非常にわかりやすい。感覚を聞いてみると絵にかいたような返答。とてもきもちがいいと言う。どのようにきもちがいいのか、つっこんで聞いてみた。とてもいい感じだと。きもちがよくていい感じなの?とさらに聞き返すと、とてもいい感じなのでしばらくこのままにしていて欲しいと言うのである。十分納得するまで味わって下さいねと私。しばらくすると小さな寝息が、ああ、寝てしまったか。まあいいかと思ってそのまま見ていたら寝息が止んでいる。それどころか胸の呼吸の膨らみが見られない。むむっ! おいおい、こんなところでお迎えを呼ぶなよ!! 一瞬ビビってしまった私。よお〜くみると1分間に2〜3回しか呼吸していない。顔の相が変わっていた。すごく美人だと思えてきた。
そんなこんなで初回の臨床を終えて、おばあちゃんが一言「今までやってもらった中で一番、具合がええ」と。妙にうれしくなった。その後、マッサージ通いは止めて私のところに来ていただくようになった。
おばあちゃんは、しわくちゃなので人前で手を出すのが恥ずかしいと言っていたのを思い出す。
肉体というのは美しい。絵画や彫刻の対象になるのもうなずけることである。肉体そのものが美しい。若くても年老いても何も変わりはない。若さにはそれなりの美しさがある。そして老年にもそれなりの美しさがある。若い肉体はより元気に満ちている。年老いた肉体はより賢さに満ちている。どの年代にもそれなりの年に合った美しさがある。なにもそれを比べる必要などありはしない。おばあちゃんの皮膚の走行感覚がいいのは年老いた肉体の賢さにほかならないものと思っている。
自分自身の肉体に関するとてもいい感じというのは、自分自身をより健康に、より全体にしてくれるに違いない。



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