操体庵ゆかいや物語 (16)
「カメや!」
佐伯惟弘
前回のブログ週間(8月3日〜8月9日)の操体庵ゆかいや物語(13)で、地元の小学生に絵本を読むシーンを覚えている方が、いらっしゃるかもしれません。
これは、毎週水曜日の午前8時30分から15分程度、地域の有志が絵本の読み語りをするという活動です。
そのなかで、隣りのウベさん(ドイツ人パフォーマー)が読んでいるトランキラ・トランペルトロイというカメのお話が面白いと評判になりました。
そこで、この話を劇にして、地域の文化祭で発表することになったのです。
絵本の読み手は30才から40才位の幼児を抱えた主婦が大半。
その中で、私より年輩で小さなからだにもかかわらず、お腹から浪花節のような大きな声を出すとても元気な女性がいます。
大阪から10数年前に越してきて、ログハウスで民宿を経営している田中さん(民宿名が、ボリジなので、ボリジさんと呼びましょう)。
そのボリジさんこそが、絵本の読み聞かせや、劇の仕掛け人なのです。
「あんな、佐伯さん。劇の主役のカメな、佐伯さんしてくれへん?ひまそうで、プランプランしてる人いうたら、
佐伯さんしかおらへんちゅうことになってな〜。どう思う?」
「ちょ、ちょと待って!オレかて、忙しい時も、あるしな、、、、、いつ、その文化祭?」
突然のオファーにうろたえる私でありました。
「11月の30日」
「え〜と〜、、、、、、あかん、あかん。残念ながら、その日な、東京へ行く日や!!!」
と、胸をなで下ろすも、少し寂しい気がする私。
「ほな、どうしょう??みんなな〜佐伯さんがカメということで、イメージ固めてもうててん(固めてしまったのよ)、、、、」
カメの甲羅をかぶり緑色の顔をした私が、仰向きで
足バタバタ、、、、こんなイメージが浮かんでしまいました。
結構面白いかも、、、などと思いつつも、
「、、、うううん、、、カメは作ってもうたら(作ってしまったら)?
ほんで、誰かが、脇で台本読んだらええやん、、、」
いい加減な答えです。
「そうか、、、、そうする!ほな、佐伯さん、カメ作って。ついでに、舞台美術やってくれへん?」
ということで私は美術の担当になりました。
しかし、美術以前にこのストーリーを知らなくてなりません。そこで簡単に説明いたします。
トランキラ・トランペルトロイ
ーがんばりやのかめー
ミハエル・エンデ(1929〜1995)作
主人公のカメ・トランキラは、偉大なるライオン・レオ28世が結婚式を挙げるという話を鳩の夫婦から聞きました。
「偉大なるレオ28世なら、全ての動物を招待するであろう。」
という鳩の言葉を信じたカメ・トランキラは、
鳩でさえやっとたどり着くであろうという遠いライオンの洞穴まで、歩くことにしました。
その道中、クモ、カタツムリ、トカゲ、カラスに出会い結婚式などとっくに終わってしまったと言われ馬鹿にされます。
しかし、それでも結婚式があると信じたカメ・トランキラは歩き続け、やっと目的の洞穴に着きました。
そこでは、レオ28世の息子レオ29世の結婚式が盛大に行われており、カメ・トランキラは、招待客の真ん中に招かれました。めでたし、めでたし。
というストーリーです。
数日後にうち合わせがあり、登場する動物達の衣装決めをすることになりました。
この演出はウベさん。10名程の女性が演ずるわけですが、登場するのが全て動物なので、衣装はかなり重要になってきます。
私は、動物の特徴を捉えて、形や素材のアドバイスをすることは得意です。
役者の女性陣は、私の意見をしっかり聞いてくれ、また逆に自らの意見もしっかり話してくれます。
非常に和やかで、楽しい時間を過ごすことが出来ました。
それから、数週間たち、稽古の様子を見に行きました。
すると、「佐伯のアドバイスなど、知ったことか!」という雰囲気。彼女達は、見事にオリジナルの衣装を作り上げ、演じているのです。
「あとは、カメとライオン。佐伯さん、頼んだよ!」
とボリジさん。
「まかしといて!」
と言ってはみたものの、カメをどうするか全く考えていません。
ライオンが登場するのは最後のシーン。
校長先生と教頭先生にかぶって戴くお面を描けば良いので、半日あれば作れます。
しかし、問題は、カメです。
主人公でありながら、舞台のそでを数メートルゆっくり動くだけです。
板に滑車をつけ、カメを載せヒモで引っ張ることまでは、考えていますが、カメをどのように作るか全く考えていません。
カメは主人公ではありますが、張り子のように作り物にすると、役者の邪魔になり、虚構の世界が前面に出てきてしまいがちになります。
そこで、カメに似せた“石”を台の上に載せてみることを思いつきました。
石は作り物ではなく本物。
しかも、カメの甲羅のようでもあり、台に載せ動くと、カメと見なすことができる。
また、本物の動かない石と役者の動きとが対比され、お互いのバランスがとれる。
そして、虚構の芝居に“石”という“普遍の象徴”を置くことで、カメ・トランキラの“不屈の意志”および“他の動物とは違った時間軸”を表現できると考えました。
(まあ〜、、、なんと理屈っぽい、、、)
そう思いついて、庭を見渡すと石だらけ。
早速、カメに似たおおきな石を見つけ、隣りのウベさんところへ、走りました。
「なるほど、、、、それはオモロイ!」
早速、ウベさんとこの大きな石を体育館へ運ぶことに。
何とか、体育館のフロアーは台車で運べたのですが、それからがいけません。
ステージとフロアーの段差は1m20cm程。
石の重さは70〜80kgはありそうです。その上、ステージまでの階段は狭く、急勾配。
とても、担ぎ上げることなどできません。
その日は、フロアーと同じ高さの控え室に石を置き、後日対策を練ることにしました。
その数日後、いやな予感。
今から20年程前のちょっと間抜けな経験を思い出してしまいました。
あれは、確か芦屋(兵庫県)の地下ホール。
「地球という自らの肉体について」というまさに、操体的なタイトルのパフォーマンスを岩下徹氏(舞踏集団・山海塾)と慧奏氏(音楽家)で行った時のことです。
私はステージデザインとパフォーマンスを任され、かなり実験的な試みを行いました。
まず、ステージを入り口側に作り、入場者は必ずステージを通るようにしました。そのため、かなり遅く入場して来たお客は、入った瞬間、自分が役者になったような錯覚を感じ、驚きの表情を示します。
まあ〜その面白いこと!!
しかも、会場を埋めているのは、石、丸太、麦わら、砂など、観客の席は、大きな石の上に丸太を載せたベンチ。
まあ〜森の中の舞踏会、、、、と言った雰囲気でなかなかのものでした。
ところが、、、、その会場をパフォーマンス終了後、1時間で撤退しなければならなかったのです。
つまり、数トンもある、自然素材をスタッフだけで、運び出す!
そのことを知ったのは、当日。
私は、気を失いそうになりました。
「どうしょう?どうしょう?、、、、、しゃない、こうなったら、お客さんにお願いしょ!!」
ということで、搬出自体をパフォーマンスにして、全員で運びきりました!!!実は、この搬出の方が、結構面白かったのです、、、めでたし、めでたし。
う〜ん、今回の大きな石。
このままでは、めでたく治まらない予感がします。あの時以上に気を失いそうなことが起こる不吉なものを感じました。
その瞬間、
「川へ行こう!川にカメがいる。」
私は、車を走らせ、一目さんに川へ行きました。
川に着き、ものの5分。
イメージ通りの石は、私が来るのを待っていました。胴体、頭、足4本、尻尾と5m以内にゴロゴロ。
喜び勇んでそれらを車にのせ、小学校の体育館へ。
神様は粋な演出をしてくれます。その道中、ボリジさんの車と遭遇。
「カメおるで、、、、カメ。」
「ワタシ、今まで小学校におってんで!」
会話になっていません。
「カメやちゅうに!」
私は、バラバラになっている石をカメに並び変えました。
しばらく様子を見ていたボリジさん、一呼吸置いて、
「カメや!」
それを聞いたカメがボリジさんの方へ、ゆっくり歩いてきたそうな、、、、めでたし、めでたし。
何で、こんなオチになってしまったの?これは“come here⇒カム ヒヤー⇒カメや”を掛けた、、、
まあ〜その〜おやじギャグ!すみませんm( _ _ )m
てなことで、何とかカメの準備も出来ました。
11月30日の夜、東京からボリジさんに電話をしてみると、打ち上げパーテイーで盛り上がっている様子。
「あ〜あ、佐伯さん。よかったで!特にライオンは迫力あった!」
とのことで、一安心。
それから数日後。
劇の反省会があると連絡が入っていたのに、すっかり忘れてボーっとしておりますと、劇のメンバーにであいました。
「佐伯さん、反省会やってるよ。私は仕事だから抜け出したけど、、、」と東京言葉(彼女は、東京からのIターン)。
「あちゃ〜〜、忘れとった!」
大慌てで、小学校へ。
「あ〜佐伯さん、、、、ええ時に来た!」
とボリジさん。
他のメンバーもニコニコ顔で迎えてくれました。
「今度の1月31日、平屋(隣りの地区)で文化祭があってな、劇することになってん。
でな、あのカメ、小さすぎて見えにくかったんやわ〜。
それで、佐伯さんがカメになるか、カメ作るということで話がまとまてん。1月31日出来る?」
あれだけ考えあぐね、作ったカメを一刀両断。
そして、遅れていった手前、全体の流れも知らないまま、
「え〜と、今度は出来る!」
というのが精一杯。
何だか訳がわからないうちに、私のカメは、年を越して、来月末まで、続くのでありました。めでたくもあり、つらくもありの、、、めでたし、めでたし。
ちょっと、ちょっとまった!
これでは、私の意見も主張も何一つ通っておりません。
照明の当て方だけでカメが全く違ったものになります。どのような劇になったのか?一度ビデオを見てから考えることにしましょう!
あ〜あ〜どうもこれから、また一波乱ありそうな予感です。
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