東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

操体と触診。

私達は触診に中指を使います。二本使う場合は中指と薬指を使います。
硬結には『実』と『虚』があると言います。『実』は怒っているというか、主張をしている分かりやすい硬結です。これは比較的キャッチしやすいものです。逆に『虚』しているところ。元気がなくて、力がない。しかしその中心に小さい芯があるような硬結です。虚しているところは、強く押さえるとつるりと逃げてしまいます。また、中指を上手く使うと爪のきわとか、うんと小さいポイントも中指で押さえることができます。繊細で柔らかい、しかし的確な触診は中指なのです。

先日、ある古武術家の先生にお目にかかった際伺ったことがあります。『最後の本当の武術家』と言われる先生です。
先生曰く、触診するには第二指(人差指)を使うのだよ、という事でした。それは何でも古来から伝わる使い方なのだそうです。中指をメインにしている私達とは違いますが、どうやら第二指は目的地に向かうセンサーのようなものがあるのでは、と感じました。
武術ではおそらく体表の急所を狙う、あるいは「骨」に触れるので第二指を使うのかもしれません。操体ではひかがみ(膝裏のくぼみ)を診ますが、ひかがみの深い硬結(特に足底筋など)に触れるには、第二指では届かないのです。ひかがみを診るときには中指を使いますが、人差指の独特の使い方があるのです。もう少し詳しく言うと、中指で触れているのですが、他の指も使っているのです。
そうやって考えると『第二指で診る』という武術家の先生のお話も分かってきます。『あの先生は人差し指っておっしゃったけど、操体では中指って習ったから違う』というような短絡的な思考にはならずにすみます。というか、そんな短絡的な思考をしていてはいけません。何故違うのか。その違いを明らかにして納得すればいいのです。
知っていてこだわらなければいいのです。

からだの骨格をなす骨組か診るのと、外側を覆っている皮膚から診るのとではセオリーが違うのは当然だからなのです。

何年か前、東京操体フォーラムでは、お昼休みに実行委員が参加者の相談にのるという時間を設けました。
その時私がお相手したのは、何度か個人レッスンをしたことがある、30歳前後の若手の理学療法士の方でした。
彼が言うには、渦状波をやっても全然反応がありません、とのこと。

(渦状波:皮膚へのアプローチ。第三分析。皮膚の面にアプローチする面の渦状波と、点でアプローチする点の渦状波がある)

「どうやっているの?」と聞いてみたところ彼は人差し指と中指の二本の指の腹を私の前腕に当てました。
当たっている指には圧がかかっていました。

「・・・・・」
う〜んちがうよ。キミ。

「本で読んでやってみたんですが」
「○○さん、点の渦状波っていうのは、中指と薬指を使うんだよ」
「この二本で『陰と陽』をあらわしていているんです」
「それに、指のハラを当てるのではなく、指尖で触れるし、圧はかけないんです。こんな感じで」と、私がやってみせると
「ええええ?こんなに軽くていいんですか?」と、彼は驚いていました。そうです。そんなに軽くていいのです。軽ければ軽いほどいいのです。
「本を見ただけじゃダメですね」
当たり前です(笑)

『快からのメッセージ』を読んだだけで、渦状波による臨床が可能になるのだったらそんなに簡単なことはないし、わざわざ時間をかけて講習を受けることもないわけですよね。

快からのメッセージ―哲学する操体

快からのメッセージ―哲学する操体

それはさておき、先程も出てきましたが膝の裏を「ひかがみ」と言います。
膝の裏は、からだ中の歪みを写し出す鏡のようなものなので、「ひざかがみ」から「ひかがみ」になったという説もあります(他にも説あり)。

操体を勉強すると、まずひかがみの触診を避けては通れません。
ひかがみの触診そのものではなく、触診に至る『間』の取り方や、そのからだのハコビ方で、『その人がどのような動診、操法をやるのか』が分かるくらいです。というか、『操体における品格』のようなものがわかるのがこの『ひかがみの触診』なのです(私はそう思っています)。自分もまだまだだと思っているので、非常に気を遣うポイントです。

ひかがみに圧痛、硬結がない患者もいる」という方もおられますが、それはその診方が足りないのではないかと思います。ボディに何らかの症状疾患があると、必ずひかがみに反応が出るからです。例えば薬物による急性中毒や、怪我でさえ出ると言います。

そして、ひかがみの圧痛硬結を見るのはやはり中指なのです。この場合、中指を思い切り立てます。そして圧痛硬結をキャッチしたら皮膚のあそびを殺しながら弾くように当てます。ポイントは腹ではなく指尖です。

ちなみに、講習の時師匠が「こうやってやるんだよ」と模範を見せて下さいますが、※注1)中指を立てて掌側を自分のほうに向ける姿勢はアメリカに行ってやったらどういうふうに受け取られるんだろう・・・・・と思ったりします。

師匠が中指を立てた手を顔の前辺りに持ってきて『こうやるんだよ』と軽くしかし力強く堂々と中指を空に向かって突き上げる動作を見る度に、私は少しドキドキします(笑)勿論この場合は「相手に手の甲を見せて中指を立てて見せる』ではなく『中指でひかがみを触診する』なのですけどね(笑)

※注1)ご存じだと思いますが、米のジェスチャーで手の甲を相手に向けて中指を立てるのは相手を強烈に侮辱する意味があります。。というか、たまにミュージシャンなどが映像でこのポーズを取る場合、モザイクがかかる位、つまり放送コードにひっかかるようなジェスチャーです。。。