東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

博多ラーメン


折り返し地点を過ぎて四日目のブログとなりました。フルマラソンで言うなら21キロを過ぎたあたりだと思います。勿論私は走ったことがないのでわかりませんが、この辺が佐助実行委員の云うドーパミンの分泌が抑制されて来る時期なのかもしれません。気を引き締めて務めさせていただきます。

ミーン、ミン、ミン、ミン畠山常任理事との出会いから半年くらい経った夏の日、当時私が勤務していた整骨院の同僚の女性にデートに誘われた。誘い文句は「海外で操体法の治療院をされている先生の講習会があるんだけど一緒にいかない。」デートのお誘いかと思ったら、ただの勉強会のお誘いでした。しかし、3日目のブログで操体魂に火がついた秋穂にはデートの誘いよりも嬉しい朗報でした。勿論二つ返事でOK!当日喜びいさんで会場に向かいました。会場は東京、早稲田大学でした。待ち合わせ場所に到着すると2~30人位の人達が集まっていた。圧倒的に女性が多い。現代日本においてはどうやら操体の世界も女性が強くなってきているのであろうか。いや、古代女性は太陽だったと云う位だから昔っから強かったのでしょう。そんな女性ばかりの集まりだから、嫌でも男性陣は目立つ。主催者でもある最近になってダイアグラム操体という本を出版されたバンクーバーの嘉陽先生、早稲田の石井先生、現在バンクーバーにて操体カナダを開業されてある小崎先生、そして・・・ひとり部屋の隅にドカッと腰をおろした眼光の鋭い織田信長似の男性が一人。見た目では何をやっている人なのか全くわからないのですが、この集りに参加されているということは、操体をやっている臨床家の方だろう。それが解っていても何となく近寄りがたい独特な雰囲気が漂っていたので、あまり近づかないようにと少し距離を置いて坐っていた。この講習会自体は、ダイアグラム操体の発表会で、ダイアグラムという嘉陽先生が独自に考案された操体の地図を使って操体をやってみましょうという内容でした。一通り嘉陽先生の坐学の講義が終わったころ、参加者のうちのおひとりが、女の子を連れて嘉陽先生の元へ近づいてきた。「この子耳が悪いのですが一度診ては頂けないでしょうか?」との申し出があり、突如嘉陽先生の操体法の実演の時間になりました。東京操体フォーラムの際でもそうなのですが、講義を聞いて基礎をしっかりと身につけることは勿論一番大切なのですが、このような実際の臨床を見て、その先生が何を診ているのか、何を感じているのかを間近で見られることは本当に価値があります。嘉陽先生はダイアグラムに基づいて動診と操法を行っていきました。橋本先生の著書の中にも紹介されてあった比較対象の動診と操法でした。一通りその女の子をモデルに操法を通した後、参加者全員で実技の練習をやることになりました。二人づつペアになって横に並んで先ほどの講義の内容に忠実に動診を通して行きました。「両膝を右に倒すのと、左に倒すのではどちらが楽ですか?」「では右の方に倒せるところまで倒して1,2,3ストン!」「先ほどと比べてください先程より動きやすくなってますか?」とこんな具合に動診と操法の練習をしていました。いや参加者全員と書きましたが間違いです。ひとつのペアだけは全く違った事をやっていました。いつの間にか私達の隣にいた、先程の眼光鋭き織田信長さんと先程のモデルの女の子のペアです。織田信長さんは仰臥位の女の子の頭上に坐り、何やら指先で頸部を触診しているようだった。「痛い!」一瞬女の子の表情が歪んだ。織田信長さんは周りには聞こえない位の小さな声で「そのままくつろいでね〜」と語りかけていた。その意外なほどやさしい言葉かけに不意を突かれそのまま目が離せずにいた。一体何をやっているのだろう・・・頚部に触れた手はその後も全く動かさずにたまにぼそぼそ女の子に語りかけていた。女の子はまるで子守唄でも聞かされているかのような柔らかい表情で今にも眠りにつきそうな雰囲気であった。もしかしたら本当に眠っていたのかもしれません。織田信長さんはその後もほとんどポジションを変えずに実技の練習中ずっと女の子の頚部に手を当てていました。結局この男性は実技の練習をしないまま講習の時間は終わりを告げた。いやこの男性だけではありません、この男性の奇怪な行動に目を奪われていた私達のペアもほとんど実技の練習ができませんでした。私は講習の後、居ても立ってもいられなくなりこの男性に話しかけてみました。「実技の練習中やられていたことは何なのですか?」すると男性は「あれはね渦状波といって、あの子の皮膚に快適感覚をききわけさせていたんだよ。」と教えてくれたが、その頃の無知な私にはそれが何を言っているのか良くはわかりませんでしたがとにかく特別な何かをやっていることだけはわかりました。ここまで書けばこのブログを読まれている皆さんはお気づきだと思いますが、その時にもらった名刺には『操体スーパーバイザー三浦寛』と名前が入っていました。この講習の後参加者の皆さんたちと近くの喫茶店で親睦会が開催されました。私は少しでも織田信長さん改め三浦先生の話を聞きたくて近くに席を陣取り、操体についてのお話をあれやらこれやら聞かせていただきました。人間のからだは快に従いたいと云う要求があるということ。楽はあくまでも楽であり快とは違うということ。操体の臨床はからだにききわけた快敵感覚を味わうことによって通すべきだということ。どれをとっても私にとって初めて耳にする言葉ばかりでした。ひたすら感動する私に三浦理事長は言いました。「臨床家はみんな技術やテクニックの良いところばかりを盗もうとしているが、操体の本質って云うのは技術やテクニックではなく、自然法則にしたがった正しい生き方の方向性なんだよ。お前も操体を学ぶのだったらそこを忘れないようにな。」この時秋穂一雄の歴史が動き出しました。今まで操体の本質を知りたくて福岡から上京し、解決されないままのもやもやが一気に吹き飛ばされるほどの衝撃でした。僕が橋本敬三先生の著書の中で感じていたのは、操体の技術やテクニックではなく、その操体の持つ生命観であり、息食動想、環境という人間全てを網羅した操体哲学なのです。私の操体メーターは完全にレットゾーンに突入しいまや噴火寸前でした。この親睦会を解散した後、三浦先生の「ラーメンでも食うか!」との鶴の一声で私達は博多ラーメンの店に入りました。「俺もガキの頃博多に住んでいたんだ。飛んだ悪がきでな〜」ラーメンをすすりながらそんな昔話までトッピングしてもらいました。一緒にラーメン屋さんに入った女性の参加者の方が言っていました。「三浦先生って外見は迫力あって怖そうに見えるけど本当は凄く優しい人なのよ。」私はその次の年度から操体法東京研究会へ参加させていただき現在に至っています。今になってこの女性の言っていた本当は凄く優しいという意味は良く解るのですが、第一印象が強烈過ぎたせいなのか、先生に「秋穂!」と呼ばれると今でもビシッ!と背筋が伸びます。操体の世界ではこれを秋穂反射と呼んでいます。

写真はその時食べたラーメン屋のラーメンではなく、博多ラーメンの老舗、長浜にある元祖長浜屋のラーメンです。ラーメン一杯400円、替え玉50円は破格です。


秋穂一雄