東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

9時間の旅(2)

ブログ2日目。昨日同様「9時間の旅」という呉竹学園に投稿したエッセイの続編をお送りいたします。
重心安定の法則の基本原則である「足は親趾、手は小指」に小さな骨が関与している!という気付きを紹介するところから、スタート!



         9時間の旅(2)



「足は親趾」
足の第一中足骨頭にある2個の種子骨がポイント。
この2つの種子骨底を結ぶ直線を底辺とし、第1趾末節骨のカギ状になった骨底を頂点とする二等辺三角形が貴重な役割をしています。
この三角形が歩く時の推進力となるだけでなく、2つの種子骨が作り出す底辺の長さが安定感と体重による圧力の分散にも役立っているのです。
「手は小指」

ポイントは3つ。
1つは、腕尺関節が蝶番関節になっている事。
上腕骨肘頭かに、尺骨の滑車切痕が食い込む様に、強靱な蝶番関節を作っています。これは尺側、つまり小指側に力が入るような構造になっているという事。

2つめは、前腕の屈筋群起始部の多くが、上腕骨内側上顆にあり、物をつかむ時、内側つまり小指側に作用しやすい構造になっているという事。

3つめは、最も内側にある尺側手根屈筋の停止部が、手根骨の最も内側にある豆状骨にあり、この豆状骨が手を使う時に、絶妙な働きをしている事。

この豆状骨は、停止部として手関節の屈曲・内転に作用するばかりでなく、遠位に存在するカギのある有鈎骨と共に、無理なく物をつかむのに大いに役立っています。

この2つの骨は、イチロー選手がバットのグリップを引っかけて持つ時に使われています。
イチロー選手は、脱力の達人。
バットのグリップをひょいと引っかけ、相手投手めがけてバットを立てるポーズを一瞬取ります。
これは、相手投手を威圧する意味合いとも、集中力を増すためとも考えられますが、実は、豆状骨と有鈎骨のカギと小指末節骨頭でバットを垂直に立て、バットの重みをほとんど感じない状態にしているのだと思います。
この状態は、イチロー選手がバットと一体化し、完全に脱力した自然体の瞬間。
だから、あの姿が美しいのです。

そして、バットを始動。
これは、バットを倒す事による重みと勢いで肩の内転を誘導し、腰への連動へと導くスイッチ。
イチロー選手は、この時点でも脱力状態は継続しているはずです。
一連の集約された美しい流れが、バットに乗り移りインパクトの瞬間を迎える事になります。
ちなみに、バットを親指と人差し指でしっかり持ち、バットを立てるとどうなるでしょう?
その瞬間、からだが強ばり、動けなくなります。これは実際に体験できます。

まあ〜諸先輩方にとって、こんなことは、周知の事実。
今更、声を大にしていうような事ではないと思いますが、ただ、1年坊主にとっては、ワクワクする体験だったのです。

「あっ、富士山!」

夕日が冠雪に当たりピンク色。
頂きには、白い雲がかかり噴煙を吐いている様に見えます。
冬の日没は、つるべ落とし。
気がつくと、冷気と共に夕闇が迫ってきました。そして、いつしか夜空を走る銀河鉄道に。
飛びゆく外灯の星を眺めながら、夏の夜のひとときを思い出していました。

「佐伯さん(私のこと)、あの蛾を見てくださいよ!
あの蛾はね、光に沿って平行に飛んでるつもりなんです。でも、光が一点から放射状に出ているから、螺旋状に飛んでしまうんですよ。」

大学で動物学を専攻した友人が、バーベキュー用の外灯を見ながら、説明してくれます。
数多くの蛾が、螺旋状に乱舞する姿は、日本画家・渡辺崋山の幽玄の世界。
けなげで、どこかおろかな生命の営みを映し出しています。

ところが、真っ直ぐに広々とした光の世界を飛んでいるはずの蛾の身になると、

「なんでやねん!飛んでも飛んでも闇夜から抜け出せへん!気持ちよう真っ直ぐと飛んでるはずやのに、目が回る!
とにかく、熱いし、痛い!
でも、気持ちいい!なんでやねん!」

まあ、こんな感じで疲れ果て、ついには気持ちよくいのちを落とす事に。
すると、その下にはそれを待ち迎える蛙。
そして、闇の中からはスルスルと蛇。
蛾は、蛾としてのいのちを全うし、蛙にいのちを捧げ、蛙は・・・蛇に・・・
もうこの様に考えていくと、あらゆる生命体が一つにつながっていると感じます。宇宙が巨大な生命であり、生と死の循環でしか成り立たない。
有り難くこの世に産み落とされた“私”という生命体は、全てを産み出し、自然法則の調べを作り上げた“崇高な主”の化身。

自然法則の調べに身を置いた事で、けなげにもいのちを絶った蛾は、快のベクトルを進み続け、痛み、めまいを感じつつも、究極的に快を存分に味わいつくし、蛙のいのちにつながったのです。

“崇高な主”の事を、遺伝子研究の権威である村上和雄先生は、“サムシング・グレート”と表現しています。
サムシング・グレート”が産み出したこの生命体は、全て
快適なベクトルを共有し調和する方向にむかいます。

長いレールを敷き騒音を少なくするのも快のベクトル。
体温調節を行ったりするホルモンの分泌は、負のフィードバック機構により調和しますが、この働きも、不快から快へのベクトルでした。
足の親趾付け根にある2つの種子骨も、快へ向かう進化の過程で必然的に出来たものでした。

村上和雄先生は、糖尿病患者に吉本興業の人気漫才コンビB&Bの漫才を楽しんでもらい、46血糖値を下げる事に成功。この情報がロイター通信を通して世界中に知れ渡り、大反響を呼びました。

この笑いこそ、快なのです。
快か不快かという原始感覚が生命のあらゆるセンサーの
底流にあります。この快という原始感覚に従う事が癒しであり、歪みの矯正となるのです。

これは、いのちのことわり。この事は、何人が何と言おうが、一歩も譲れません。何故なら、これは私の自我なる主張ではなく、天地自然の真理だからです。

「品川、品川、ご乗車ありがとうございます。」

おお、やっと2日間にわたっての9時間の旅が終わったようです。
長旅のお付き合いどうもありがとうございました。
19時5分、体温36,8℃





大徳寺の近くで見つけた川藤さんのお店



佐伯惟弘