東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

選ばれない理由

昔々、あるオーディションを受けた事があります。
それが「国民的美少女コンテスト」とか「東宝シンデレラ」とかだとチョットオモロいのですが(想像しないようにお願いしておきます)、勿論そういうものではなく(笑)、坂東玉三郎さんが学校を作られるのでその生徒を募集するというものでした。
僕自身はアイドルやシンデレラになるなどという野望は持ち合わせていませんでしたが、友人にプロの俳優志望の人間がいたので「お前チャンスだから受けてみろよ」と勧めたのです。僕はその彼が翻訳劇とかよりも日本人らしいものが向いているんじゃないかと思って勧めたのですが、あまり気が進まないらしく「お前が受けるなら」と云うので二人で応募したというわけです。


ところが、僕が当日オーディション会場にいつものしょっぱい格好のままノコノコ行ってみると、友人が来ていない。これじゃぁ何の為に行ったのかわかりませんが、せっかくなので噺の種にと思い、受けて帰ることにしました。
玉三郎さんが生徒を募集するとなれば、何千か、万に届く応募があったでしょう。
僕は当然、ワケのわからんオジサンの前で10人くらいが並んで、1つの質問に順番に答えてお疲れさまでした結果は後日、みたいなことを想像していたのです。
ところがどうぞと言われて中に入ってみると、玉三郎さんを真ん中にオーディションをする方の人が3人が並んで座っていて、受ける方は僕一人です。さすが一流というのは手を抜かないですね。僕ごとき馬の骨にもご本人が面接してくださいました。
僕は絶対受からなきゃという意気込みで行った訳じゃなかったのですが、玉三郎さんがスゴい人だという事は感じていたので、ご本人を目の前に、自分の素材の貧しさを思い、申し訳ないやらありがたいやらで何とも言えない表情になっていたと思います。一応演出家志望として応募していたので、玉三郎さんが気さくに演出についての質問をしてくださり、真面目に思っている事を答えはしましたが、今思うと僕のような青々とした青二才の言葉をよく我慢して聞いてくださったなと思います。ありがたいことです。
30分くらい話しをさせてもらったでしょうか、そろそろ終わりかなと思っていると「君、ちょっと台本を読んでみないか」と言われました。今なら、どんな奴でもとにかくやらせてみよう、可能性をみてあげようというお心遣いだったと思いますが、その時はそこまで察する余裕は毛頭なく、天下の玉三郎さんの前でド素人の自分が台詞を読むなどという大それた事の恐ろしさに堪えられず、台詞を読まないままオーディションを終わりました。今の自分なら、面白そうだとホイホイやってしまいそうですが、せっかくのお気遣いを感じ取る事が出来ず、本当にアホな事をしました。
結果はもちろん不合格でしたが、もしあの時、あの言葉に乗っていたら。
やっぱり超一流の役者にはならなかったと思いますが、何か違うものを得られたかもしれません。
何よりもあの言葉に乗っていけなかったということが、才能が無かったということだなと自分を振り返ることがあります。



選ばれない理由というのには様々あると思いますが、せっかく選ぶ方が扉を開いてくれていても本人が乗っていかないというのはどうしようもないですよね。
目の前に道があるのに気付かずに迷ってみたり、こんな道はイヤだと言ってみたり。神サマも、こんな奴らの面倒は見切れないとヤケにならないでよく辛抱しているなと感心しますが、道が無いように見えても、この道じゃないように思っても、自分の思惑はいったん横に置いて歩いてみると、思いがけない景色が開けたりするものです。今の自分は思惑をどこまで放っておけるかな、どこまで道をききわけられるかなと思いながら今この道を歩いています。
今年の東京操体フォーラムも、新たに「東京操体フォーラムin京都」を行うなどの活発な活動が予定されています。以前「行き先のわからないジェットコースター」と書きましたが、最近は地球を飛び出して無重力を旅するロケットに乗っている感じです(笑)。正直振り落とされないかヒヤヒヤする事がありますが、師匠に話すと「お前の想像を超えてるんだろ、だったらいいじゃないか」と言われて納得しました(笑)。確かに想像以上の景色をこれからも見せてもらえそうです。
東京操体フォーラムin京都は京都大徳寺玉林院で8月28日(土)、29日(日)に開催です。皆さんのお越しをお待ちしています。

あ、ちなみにですが、あの時オーディションに来なかった友人は今、歌舞伎俳優になっています。なんでやねん!と激しくツッコミを入れたくなりますが(笑)。


山本明