東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

侍女の物語と産児制限

こんにちは。東京操体フォーラムの畠山裕美です。今回は橋本敬三先生が生涯のテーマ(レーベンス・テーマ)として追求された「性(セックス)」がテーマです。男性諸氏とは少し違った観点から語ってみたいと思います。

私の猫は16歳になる。

12,3歳の頃から「目が緑の黒猫がいいな」と思っていた。ある日、デパートでやっていた「世界の猫展」に行き、猫がいないのに、何故かキャットフードのサンプルをもらって帰った。丁度その夜、自宅マンションの前で鉢合わせして、初対面ですり寄ってきたのがこの子だった。キャットフードのサンプルは無駄にはならなかったのである。

当時は野良子で、近所の白いボス猫の「情婦」だった。強面の白いボス猫の脇で「うにゃ〜ん」と鳴いていた。よくマンションの階段を上って私の家まで遊びに来ていた。

その時黒猫はお腹が大きかったのだが、しばらくして、子猫を5匹産んだ。マンションの一階に住んでいる人が子猫をベランダで預かってくれた。里親を捜して3匹はもらわれていったが、2匹は外にいる間に車に轢かれて亡くなった。

その後、私は決心して猫をキャリーバッグに押し込み、病院に連れて行った。避妊手術のためだ。一度子猫を産んでおり、その後も雄猫と接触した可能性があるので、子宮と卵巣全摘である。
この話をすると「かわいそう」という人とそうでない人に分かれるのでどちらがいいかとは言わないが、年間、保健所で一酸化炭素で窒息処理(敢えて処理と言う)されている犬や猫のことを考えると、やはりどうにかしなくちゃな、と思う。

かわいそうに、というのは簡単だ。勿論かわいそうだし、雄猫はタマをパチンと切って絆創膏を貼っておわりだが、雌猫は開腹手術をしなければならない。自然は自然でもいいんだが、増える子猫の責任を持てるのか?と、思うと、都会の飼い猫はやはり避妊去勢手術をするのが飼い主としての愛情だと思う。

以前、地方在住のある女流作家が、猫に子猫が生まれたら、崖から海に捨てると言っていた。彼女いわく、自然に任せているのだそうである。そういう考え方もあるかもしれない。残酷というのは簡単だが、他にどんな選択肢があるのだろう。いずれにせよ、私は子猫を崖から海には捨てるなんてできない。
かわいそうとか、自然が一番というのは簡単だが、いずれにせよ、妊娠してリスクを背負うのは雌と女なのだ。

アメリカなどでは未だに妊娠中絶が認められていないところがあり、年に数人は過激な宗教者による、中絶医の殺害が絶えないとも聞いている。

20世紀初頭、産児制限(受胎調節)運動を唱えたマーガレット・サンガーは、貧しい女性が、望まない妊娠出産をくり返すことを防ぐため、つまり「女性には産みたい時に産む権利がある」ということを唱えた。貧しい女性が妊娠出産をくり返すということは、からだへのリスクをはじめ、経済的にも不安定にもなり、生まれた子供に充分な栄養や教育を与えられないということでもある。
当時、バースコントロールをすることは「変態」だと思われていたようで、サンガー自身、感化院に入れられたりしている。
カトリックでは避妊を禁じているところがあるようだが、昔は人口の増加がそのまま国が富み、働き手が増えることでもあった。男性の自慰は、精子を無駄にするな(笑)ということだ。同性愛が禁じられていたのも、それが直接の生殖繁殖につながらないからだ。ほんの半世紀前まで海外では「手淫するとバカになる」とか言われていたのだ。

私が非常に印象深いと思っている本に、カナダのマーガレット・アトウッドの「侍女の物語」という話がある。

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

20世紀最後のあたり、アメリカが過激なキリスト教集団「ギレアデ」によって大統領が殺害され、中央アメリカが新政府に制圧されるという話だ。
世界中で環境汚染か何らかの理由で女性の妊娠能力が落ち、子供が生まれなくなる。ギレアデは、女性の銀行口座を全て凍結し、金銭的自由を奪う。また、名前も奪う。
例えば「オブグレン」「オブフレッド」のように、グレンの妻、フレッドの妻、というように呼ばれるのである。

出産経験のある女性ならば、妊娠の可能性が高いとして、若い経産婦を集め「侍女」とする。聖書には、正妻に子が生まれぬ場合は、侍女を代理にして子を産ませても構わないという一節があり、それに従っているのである。

ギレアデ政府は、「侍女」を、軍の上級幹部にあてがう。侍女は公認の「妾」なのだ。その儀式の際、正妻は仰向けに寝て、侍女は正妻の恥骨の辺りに頭を乗せ、二人はしっかりと手をつなぐ。そうして、正妻と侍女は「一つ」になっており、その状態で、「御主人」と交接するのである。これは姦淫でも何でもなく、聖書に基づいた儀式として行われる。女性は、人格を持つものではなく、子を産み育てる器として扱われるのだ。

NANA (1)

NANA (1)

人気コミック、「NANA」では、ナナは婦人科医に通ってピルを処方してもらっている。何故かと言えば恋人レンが避妊に非協力的だからだ。レンは子供が好きだから沢山つくろうぜ、みたいなことを言うのだが、ミュージシャンとしてのキャリア街道を進んでいる最中のNANAにとって、子供を作るということは、キャリアを断つことにもなる。

もう一人の主人公、奈々(ハチ)は、逆に少しお間抜けで、二人の男性と関係し、「どっちの子だ?!」という妊娠をしてしまう。
ナナが奈々の相手(同じバンドの仲間)に言うのが「最初からコンドームつけたか?」「途中からつけても意味ないぞ」ということで、実は日本人男性の多くは、「最後につけりゃいいじゃん」と思っているらしいのである。先走り汁(す、すんません)の中にも精子は含まれており、それで妊娠が成りたつ可能性も十分あるのだ。

★これは「できちゃった結婚」と、避妊に失敗した、という原因の殆どをしめるらしい。また、日本人男性の多くは、射精直前にコンドームの装着をするという調査結果もある(日本の結婚の半分ができちゃった婚で、5組に一組は中絶を選択するらしい)
★耳が痛いという方がいたら、ごめんなさい(笑)
★これから気をつけてください。STDの予防にもなりますから

ピルと言えば、低容量ピルは現在、生理不順とか更年期障害などの治療に使われている。解禁までには時間がかかったが、一番時間がかかったのはオヤジ議員の説得だったらしい。「ピルを解禁したら女性が開放的になりすぎる」というので、なかなか通らなかったのだ。

女性はばらまく性ではないから、「ピル解禁だからもうやりまくりよ」と、全ての女性がか言うわけないし(笑)、愛のないセックスは自分の体をいためることもわかっている。なので、ピル解禁したら女性が云々というのはオヤジの考えなのだ。また、未だに「ピルを飲んでいると遊んでいると思われる」という女性もいる。

効果的な避妊方法が普及されていない国ほど、中絶率が高いというデータもある。日本は先進国の中でもトップクラスのピル後進国だが、年間の中絶率は約33万件(実際は倍くらいらしい)もある。

私の古い知人で、若い頃は何人もの女の子を「孕ませて堕ろさせて」をくり返した男性がいる。最近手紙が来た。
再婚し、子供が生まれました。こんなに子供が可愛いとは思いませんでした。私にはもう連絡を取らないで下さい、と書いてあった。若い頃のやんちゃを知っている私とはこれ以上付き合いたくはないのだろう。
住所録と携帯から彼のデータは消去した。