東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

『What’s yours is mine, and what’s mine is my own』

「お前のものは俺のもの、俺のものはおれのもの」

ドラえもんの登場人物ジャイアンこと剛田武氏の名言である。この言葉、一見すると凄く傲慢で自己中心的な言葉に聞こえるのですが、アニメドラえもんの「のび太の入学式」の回でジャイアンのび太が無くしてしまったランドセルを泥だらけになりながら必死に探し回り、無事にのび太の元に取り戻したさいにこの言葉を語りかけるのです。「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものだからな・・・」他人の痛みを自らの痛みとして分かち合う。そんな他人思いの優しい言葉です。

他人の痛みを分かち合うと言えば、操体の臨床を行っている時に突然操者である私のからだに患者さんと同様の感覚がききわけられる事があります。それは時に気持ちよく、時には痛みなどの不快感を伴い、またある時にはからだの無意識の動きとして表現される事があるようで、お互いにからだに現れた感覚について話をしてみると実に興味深いカウンセリングを行う事が出来たりもします。先日こんな事がありました。

先日患者さんのご自宅へ往診に行った先での事です。その患者さんは現在7ヶ月目の赤ちゃんがお腹にいる妊婦さんで、産婦人科でお腹の子が逆子であるとの診断うけ、からだのケアと逆子の改善を改善する為に当院に見えられましたのですが、もし治療院に来院する事が出来なくても自宅でセルフケアが出来るようにと、ご主人のお休みに合わせて父の日参観をする事にしたのです。今回の治療の主役はお腹の赤ちゃんです。お母さんには治療中はお腹の赤ちゃんの要求に従いながら治療を行う事を理解して頂き、常に赤ちゃんの状態や赤ちゃんの気持ちを出来る限り代弁して頂くようにとお願いして治療に入っていきました。勿論お父さんにもお手伝いして頂きます。まずはお母さんのからだの極性をききわけていただいた。東西南北ひとつひとつのポジションで赤ちゃんの感覚をききわけて頂くと北に頭を向ける姿勢が最もリラックスし赤ちゃんがの動きが活発になるということであり、その方向で仰向け位と左右横向き位を比べてみると仰向けでいる事が最も良いということでしたので、この姿勢で今度は、操者である私のポジションをききわけて頂きました。すると赤ちゃんは私が頭の方にいる事を望んでいるとの事でした。次に助手であるお父さんの位置もききわけて頂くとお母さんの左下肢の位置にいて欲しいという要求がありました。全員のポジションが決まったところで実際に皮膚に触れて感覚をききわけて頂きました。お母さんの皮膚に触れてお腹の赤ちゃんの反応を見てみると、やはり赤ちゃんが喜んで動き回る箇所があったのでその位置に手を触れていると、今度はお母さんの方から「赤ちゃんがパパに左の膝を触って欲しいっていってます。」と要求がありました。その赤ちゃんからの要求に応えるべくお父さんに左の膝に触れてもらうと、お母さんは左の足首に痛みが出て来たと訴えました。私が「不快なようでしたら中止しましょうか?」と問いかけたところ「赤ちゃんがパパの足の痛みを取ってあげるっていてます。」とそのまま続けることを望んでいました。お父さんに聞いてみると若い頃にスキーで左の足関節の靭帯を損傷した経験があるという事でした。続いて奥さんは右の方の違和感を感じた様子で「この感じはもしかすると先生ですか?」と私に尋ねました。丁度その時私も首から頭に掛けての緊張感を感じていて、誰かの感覚を共有しているのかと思っていたのですが、どうやら赤ちゃんの方から私のからだへ何らかのアプローチがなされていたようです。そうしてお母さんが再び赤ちゃんの言葉を代弁してくれました。「赤ちゃんが先生を助けてあげる。って行ってますよ。」全く生まれる前から良く出来た赤ちゃんです。というよりもこのような興味深い臨床をやらせて頂いているだけで随分助けられていると思えるのですが、本当に嬉しい限りです。すると今度はお父さんから「でもこの目の痛みはお母さんの痛みじゃないの?」という問いかけがありました。伺ってみると実際にお母さんも以前交通事故で頭部に大きな外傷を受けた経験があったそうです。こうなってくると誰の治療やらわからない感覚を共有しながらの大討論会のようになっていました。ご夫婦と私も含めてそれぞれの痛みも含めてとても深いところでのコミュニケーションが取れましたし、生まれて来る赤ちゃんがお腹にいるときから自分の意志を持っているということが少し理解出来た気がします。操体の臨床は患者から操者、操者から患者という一方通行の治療なのではなくその場にいる人全てを包み込む双方向(インタラクティブ)の対話で作られていくものなのです。さらに人間の感覚の神秘に触れた気がしました。

「楽じゃいけないっつーの、気持ちよさをききわけるんだっつーの」


東京操体フォーラムin 京都2011は8月28日(日)に開催されます。北村翰男(奈良漢方治療研究所、奈良操体の会)、三浦寛

Sotai Forum inMadridは、9月24日、25日の二日間、マドリードにて開催致します。三浦寛

2011年秋季東京操体フォーラムは11月6日(日)、東京千駄ヶ谷津田ホールにて開催予定です。