東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

歴史時間

「真実は時の娘」という英語の諺がある。"Truth is the daughter of time."「時の娘」とは真実を指す。
「真実は、今日は隠されているかもしれないが、時間の経過によって明らかにされる(明らかになる)」という意味だとされている。

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

  • アラン・グラント警部は犯人を追跡中に怪我をし、しばらくの間病院のベッドで横になることになった。彼はふとしたきっかけから、イングランド王リチャード3世に興味を持つようになり、知人から渡された当時の文献などを調べ、リチャード3世の知られざる素顔、そして彼が2人の王子エドワードとリチャードをロンドン塔に幽閉して殺害したとする悪名高い逸話は真実なのかを、寝たきり探偵的に推理していく。

昨年の夏、奈良に行った。奈良の北村先生のお気遣いで、奈良の大仏様のお膝元まで上げていただいたのである。
大仏殿の正面からではなく、特別に横から入れていただき、大仏殿を見上げた。確か日本で最大の木造建築だったと思う。戦乱で何度も焼け落ちてサイズダウンしているそうだが、やはり大きかった。私が歴史的建造物好きなのは、時代を越えて、ここに立っていた人々がいたからだと思う。1000年前にも多分こうやって大仏殿を見上げていた人達がいたに違いないからだ。私はそこに何だか懐かしさを感じるのである。
とにかく仏教の世界の時間感覚はすごいものがある。弥勒菩薩様はお釈迦様の入滅後56億7千万年後の未来に姿を現れて、多くの人々を救済するとされるそうだが、56億7千万年とは一体どんな時間感なのだろう。まあ、それくらい長いよ、という意味もあるのかもしれない。


大仏殿

なお、奈良の大仏様は大きいのだろう?と思った事はないだろうか。
聖武天皇が幼くして亡くなった我が子を弔うため、国家と自身の健康のために建立したそうである。また、大きくしたのは全国的なイベントでもあったので、「大きいことはいいことだ」みたいなノリで大きくしたらしい。大きい方が御利益があるということもあったのだろう。
しかし、大仏様を金めっきした際に用いられた「アマルガム法」は、精銅で鋳造した大仏を、水銀に金を溶かした金アマルガムで覆い、加熱すると水銀が蒸発して金だけがめっきとして残るというものだった。何とこのめっきには20年近くの時間が費やされ(20年間水銀ガスが放出されっぱなし)ている。
そのお陰で、当時水銀中毒が大流行し、これは日本史上初の公害病と言われている。また、奈良から京都への遷都の原因は、水銀中毒のせいだという説もある。民の幸せを願って建立したものが、水銀中毒の原因となったとは、聖武天皇も思いも寄らなかったに違いない。もっとも、当時は水銀の害毒は知られていなかったので、「たたり」や「疫病」として扱われたのではないかという意見もある。

時間と言えば、昨年の秋訪れたスペインのトレドの町(マドリッドから50キロくらい、町自体が世界遺産になっている中世からの要塞都市)の中央には、トレドの大聖堂が立っている。トレド大司教座が置かれている。トレド大司教は、スペイン・カトリック教会の首位聖職者だそうだから、一番すごい教会(?)らしい。この教会は1226年に建造が始まり、完成したのは1493年というから、約270年もかけて建造されたものだ。13世紀のフランス・ゴシック様式の影響を受けているそうだが、ムデハル様式イスラム教徒の建築様式とキリスト教建築様式が融合したもの)も取り入れており、何となくエキゾチックな感じもある。それにしても気が長い話である。270年と言えば親子何代に相当するのだろう。そして、何故そんなに長い時間をかけて教会を建てるのだろう。
ガイドの人(マドリッド在住の日本人)曰く、時間をかけて大きな建造物(特に教会)を建てるということは、教会の権力を示す為だったそうである。


トレドの大聖堂


街自体が世界遺産に指定されている

トレドの後、バルセロナに移動して、サグラダ・ファミリア(聖家族教会)を見物した。1882年に建築が始まり、約130年経った現在でも工事は続いている。私達が行った時も、クレーンが動いていた。面白かったのは、町の一角だけがサグラダ・ファミリアなのである。通りの反対側は普通のオフィス街なのだが、その周りだけはカメラを持った観光客が口を開けて遙か上空に見える、教会の屋根の先端を見ているのだった。


サグラダ・ファミリア。クレーンで工事をしている。世界中からやってきた観光客が皆上を向いて写真を撮っている。

そこで私が気づいたのは、大仏も巨大な教会も「見上げる」という人間の動作によって「なんだかありがたい」とか「御利益がありそうだ」とか「神々しい」とか「畏怖」を感じさせるのではないかということだった。教会のステンドグラスは、元々字が読めない人達にキリストの生涯を伝えるために作られたものだと言うが、高いところに飾られ、光を通した幻想的な風景は、人の心を敬虔にし続けてきたのかもしれない。

1200年前から大仏様を、その口をあんぐり開けて目を見開いて見つめてから、次の瞬間手を合わせる。そんなことが幾度もくり返されてきたのだろう。

畠山裕美

東京操体フォーラム in 京都 はいよいよ来週開催です

東京操体フォーラムin 京都2011は8月28日(日)に開催されます。北村翰男(奈良漢方治療研究所、奈良操体の会)、三浦寛

Sotai Forum inMadridは、9月24日、25日の二日間、マドリードにて開催致します。三浦寛

2011年秋季東京操体フォーラムは11月6日(日)、東京千駄ヶ谷津田ホールにて開催予定です。