東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

心とからだの研究(最終日)

昨日の続き
昨日に引き続いて、操体の動診をもう少し掘り下げてみよう。動診の動きを起こす際にはまずイメージすることから始まると先述したが、これにはからだの機能の一特性を理解する必要がある。この特性というのは、心の外にあるもののことを考えるときには必ず、即座に筋肉がその想念の方向に緊張して振動するという現象が起こるということだ。
たとえばもし、足関節の背屈という想念が、被験者の思っている方向に向くと、特定の筋肉、いわば繊細な筋肉がそちらの方向に振動する。いわゆるからだの全緊張がその方向を指向するのである。同じように首の背屈を行う場合にも天井を見つめるように想念を上に向けると、特定の筋肉が緊張して上に持ち上がったような形になる。わかりやすく言えば想念がある特定の方向に動くときは、必ずその同じ方向を目指す筋肉の緊張が伴うわけである。
こういった現象の存在を知っている操体操者は、臨床において被験者に介助を与える前に、その手足に触れたとき、想念の方向に緊張する筋肉の振動を感じとることになる。たとえば左手首の背屈を誘導するに際して操者はまず被験者の手を握る。もちろんその被験者は操者の言葉の誘導によって左手首の背屈の動作のことを考えているわけである。そして手に伝わってくる無意識の徴候や振動を難なく読める熟達した操者には、より動作の誘導がたやすくなってくる。
操体操者にこんなことがやれるのは、何か特別な知識を備えているからではなく、単にこうした人間の特性の秘密を知っているからにすぎない。この秘密を知っていれば、誰でもちょっとした練習で同じことができるようになる。必要なことは被験者の手に注意を集中して、ほとんど感知できないくらいの僅かな動きを捉える力だけである。基礎を身につけた者であれば、根気よく練習を積むことによって必ず、ベテランの操体操者と同様に、被験者の筋肉の振動を感じとることができるだろう。
先に示した左手首の背屈に関して、何故このようなことが可能になるのかというと、握った左手の筋肉は、手首の背屈の方向に緊張せざるを得ないからであり、それらの筋肉が意識よりも潜在意識の支配下にあるからである。このように想念やイメージという心の働きがからだの筋肉に及ぼす影響は想像以上である。とはいうものの想念をそんな簡単に使えることができるのか、といった疑問をもたれるかも知れない。しかし、真理はいつもシンプルなものだ。まずはからだの動きをイメージして、感じてみれば、からだが教えてくれるだろう。すべてはからだの声を聴くことから始まるのである。
こうした操体の知識や療術の基礎を学びたいと思う者は、『操体法東京研究会定例講習』を受講するのがいちばん確実な方法である。講習でしっかりと基礎を身につけることが最も大切なことであり、その上で反復継続の自己努力が求められる。操体臨床は、からだが喜ぶことを喜びとする快なる妙療法なのだ。



三浦寛 操体人生46年の集大成 "Live ONLY-ONE 46th Anniversary"は2012年7月16日(海の日)に開催致します。