東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

神経症10

 子どもたちの原始的な情景として、笑いものにされ、拒否され、無視され、恥ずかしめられ、駆り立てられることなど、無数の小さな経験、すなわち、小さな原始感覚的情景を経ている。そしてついにある日、子どもはこうした有害な出来事の一切が持っている意味を悟り始める。ある決定的な出来事が、こうした過去のあらゆる経験が持っている意味を要約するようである。「両親らはありのままの自分を愛していない」という思いのそれは、子どもらにとって破滅的な意味を持っている。したがって決定的な出来事は否定され、葬り去られ、非現実の自我の闘いがそれにとって代ることになる。その後、その経験はこの覆いによって緩和されるので、自分が現に苦しんでいることに子どもが気づかぬことがしばしばある。

 しかし非現実の自我の闘いが子どもを心の苦痛から守ってくれるのである。小さな原始感覚的情景のクライマックスである決定的なシーンを思い出させるクライエントもいれば、それ自体としては取るに足らぬ小さなクラック、亀裂が、ゆっくりと単調に蓄積されていき、それがある日突然に大きなクラック、亀裂を生む場合もある。このクラックが原始的な大きな原始感覚的情景といった劇的な形をとって生ずるにしろ、小さな原始感覚的情景の蓄積の結果にすぎないにしろ、子どもが現実から非現実の世界にすべり込む日が必ずやってくる。

 大きな原始感覚的情景のおりに生ずる分裂は、子どもが統合性を備え、結合している人間であることに終止符を打つ。このような大きな原始感覚的な情景は、子どもの生活で起こるただ一つのもっとも破壊的な出来事である。それは氷のように冷たい孤独の無限の奈落に落ち込んだ瞬間であり、あらゆる認識のなかでもっとも過酷なものである。それは、あるがままの自分は愛されていないし、この先も愛されることはないだろうと気づきはじめる瞬間である。

 大きな原始感覚的情景は、ふつう五歳から七歳の間に起こる。この時期は、子どもが身体的な経験から一般化を覚える頃である。この時期は、これまでに自分に起こった異質な出来事のそれぞれが持っている意味を、子どもが理解し始めようとするときでもある。客観的には、大きな原始感覚的情景は必ずしもトラウマを伴うものではない。それは衝撃的な出来事である必要はない。むしろそれはある了解であって、どちらかというと日常的な出来事を経験しているときに、子どもが、真実をちらっと、一瞬、垣間見ることである。

 たとえばある男性のクライエントは、小さなときにお母さんを呼ぶと、母親ではなくいつも怖い思いをさせられている父親がやって来たことを覚えている。そのとき、「自分が必要としているとき、お母さんは決して来てくれない」という思いが心をよぎった。また夜に寝床についてから、童話などの本を読み聞かせて欲しいとお母さんに頼んだことが何度もあった。しかし母親が来たためしはなかった。来るのはいつも父親だった。ある日彼は、自分の母親は必要なときに来てくれないことに気づいた。母親に来て欲しいしいと思うと、呼び求めることを厳しく叱りつける恐ろしい父親が来るので、彼は途方にくれてしまった。彼は母親を必要としていないふりをし、二度とお母さんを呼び求めることはなかった。その後、彼が母親を呼び求めたのは、大人になってから私の臨床で行なったリバーシングというブレスセラピーでの苦痛の最中に、「お母さん!」と呼んだのがはじめてである。

 ある日、大きな原始感覚的情景に直面し、緊張のために自我にクラックが生ずる瞬間まで、小さな原始感覚的情景は本当の自己を襲う単なる小さな出来事、批判や屈辱にすぎない。大きな原始感覚的情景は、生まれて間もない時期に起こりうる。それは本質的にひどく破壊的なことが起こり、小さな子どもが自分を守り切れず、その経験から分裂するしかないときに生ずる。こうした出来事は取り返しようのない分裂をもたらすので、その強さをそっくり追体験するまでつづくことになる。生まれてからいくらも経たないのに、両親から引き裂かれて孤児の施設に入れられることなどが、その一例である。

 大きな原始感覚的な情景が重要なのは、それぞれに苦痛を意味している何百もの他の経験を、象徴しているからだ。したがってそうしたシーンをリバーシングなどの精神療法を受けているときに再び体験すると、その直後に関連のある記憶が大量によみがえってくる。すべての出来事を結びつけているものは、「自分を助けてくれる人は一人もいない」というような思いなのである。こういった不快な感覚について、操体でも肉体レベルにおいて、原始感覚を非常に重視している、が、決してそれは偶然なことではない、それが肉体における感覚の大小の情景を伴っているからだと私は思っている。
 明日につづく


2014年4月27(日)
東京操体フォーラムが開催決定!
会場は東京千駄ヶ谷津田ホールです。

「入眠儀式 快眠・快醒のコツのコツ」
是非お越し下さい。

http://www.tokyo-sotai.com/?page_id=644