東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

神楽

多分、どの家庭でも、そのご家庭ならではの『ルール』があるかと思います。
私の家庭でも緩やかなルールがあり、その一つが年に二回の”家族旅行”です。
うちは子供がいませんので、家族内のコミュニケーションはとれている方
だとは思いますが、それでも出掛けてリフレッシュすることで、又、気分
を変えつつ日々過ごしております。

今年は何だか私も家内も忙しく、中々予定が取れず延び延びになっていました。
今年はGWも仕事が普通に入っておりましたので、予定が未定だったのですが、
前日になってクライアントの予定がキャンセルになったので、このタイミング
しかない!と思い、今年一回目の小旅行となりました。

時間も段取りも十分ではなかったので、今回は近場で探し、車で約2時間半の、
島根県の西部浜田市の旧三隅町(みすみちょう)』へと向かいました。
この時期、こちらの”三隅神社”内にある”三隅公園”には5万本のツツジ
が満開の時期を向かえており、ツツジの名所として県内外から観光客が訪れる場所です。

天気も良く、満車気味の駐車場に車を停めて、神社まで歩いて行きました。
今回のテーマは『手作り弁当を食べましょ』がテーマでしたので、前日遅く
まで嫁がせっせと、おかずごしらえをし、朝おにぎりを詰めて、ツツジを眺
めながらのお昼となりました。

思いの外人が多く、レジャーシートで確保出来る場所があるのか、
不明のまま境内へと入っていきますと、おお!丁度具合の良いスペースが
と場所を取り、食事を始めました。

あれ?と廻りを見渡すと、茣蓙(ござ)を引いて座っている人達が多い
と思いつつ、よく見ると境内には神楽殿があり、音響の準備などを手慣れた
手つきで行われていました。
ムムム・・ガッツリ食事しているのはどうやら私たちだけで、殆どの方々は
島根県西部地方の郷土芸能『石見神楽(いわみかぐら)』の見物に来ている
ギャラリーでした。

『神楽』は皆様ご存じの通り、神道の神事において神に奉納するため
奏される歌舞で、さすが人よりも神の数が多い国島根においても、
当然ながら盛んで、子供の頃から神楽に関しては慣れ親しんでいる
ところがあります。
私の住む宍道町でも夏祭りには急造の神楽殿が出来、以前は一晩中神楽
が行われるほど、生活に密着している芸能の一つでもありました。

私も知らなかったのですが、神楽も大別すると四種類有るそうで、
その内の『採物神楽(とりものかぐら)』と言われるモノがいわゆる
『出雲流神楽』と言われるのだそうです。採物(とりもの)は巫女などが
手に取り持つ道具で、榊(さかき)とかの類いのようです。
以前、畠山先生がブログでも書かれていたので詳細は割愛しますが、
古事記日本書紀の岩戸隠れの段でアメノウズメが、ほと見せながら
舞ったのが神楽の起源と言われています。

島根の神楽の中でも『石見神楽』は人気が高く、衣装や面の素晴らしさなど、
工芸品としての価値も高く、力の入れようが違います。

私たちも何だか思わぬ神様からのご褒美を戴いた様な気分になり、
そのまま、神楽見物をすることとしました。
演目は『黒塚』という演目で内容は以下の通りです。
『熊野、那智山の東光坊(とうこうぼう)の高僧、阿闍梨祐慶大法印
(あじゃりゆうけいだいほういん)が剛力と修行の旅の途中、那須野ヶ原
通りかかり、九尾の悪狐が人々に害を与えているのを聞き、人々のために、
この悪狐を退治しようと出かける。一夜の宿を借りるが、そこの女主人=
悪狐に化かされて法印は逃げ去り、剛力は食われてしまう。それを知った
弓の名人、三浦之介、上総之介により退治される。』―石見神楽HPより抜粋−

おお!九尾の狐か!と妖怪マニアの血が騒ぎましたが、結構癖のある
喋りでしたので、途中聞きづらい部分も有ったのですが、かなり愉しく
観られました。
私たちが普段観ている出雲神楽は割に大人しめで、如何にも神前で行う
儀式色が強く、やや形式張ったところが個人的には不満なところもありました。

ですが、この『石見神楽』は観客を愉しませるといったエンターテイメント
色が強く、登場人物二人の掛け合いなど、方言を交え現代的なアレンジも加
えながらの会話に、家族で大笑いしながら観ておりました。

何より微笑ましかったのは、子供たちが愉しんでいることでした。
神楽殿のかぶりつきの場所で舞手に弄られながら走り回っている様は、
私の子供時代を思い出させ懐かしくもありました。

私が子供時分、娯楽が無かった頃はこの様な『神楽』は身近な存在で、
子供心に『八岐大蛇』などお馴染みの演目を、ワクワクしながら観て
いた記憶があります。

この『石見神楽』鳴り物もリズムが独特で、私も詳しくはありませんが、
通常は四調子と言われる日本的リズムのものが多いようです。
五七調の詩も四調子の中に入れることが出来ますので、神楽の
スタンダードのようです。
一方で、『石見神楽』は八調子と言われる、更に軽妙なリズムに
感じられました。これは出雲人とは違う、石見人気質がそうさせるのだと、
聞いた様な聞かない様な・・・

演目が進み、弓手と九尾の狐とのバトルで最高潮に達すると、
子供たちの興奮もピークになり、全力で泣き出す子供や、一緒に
真似して踊り出す子など、古の時代から変わらぬ光景にさすが
神事だと改めて、感心しきりで良い時間を過ごしました。

まぁ〜一つの演目が長い長い〜地元の方は慣れているのでしょうが、
”黒塚”の演目は90分ぶっ続けでした。
次の演目が『恵比須(えびす)』でお目出度そうでしたが、帰りの時間もあり、
引き上げました。

帰りの車の中はツツジよりも『神楽』の話しで持ち切りだったのは
言うまでもありません。ステキにノスタルジックなプチ旅行でした。