東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

神経症19

昨日のつづき

 緊張は肉体のあらゆる部位で感じとられるが、それが集中する特別な器官が存在している。それはまぎれもなく「胃」である。腹部全体におよぶ胃の筋肉の強い収縮は、神経症にかかっている人間の内面的な痛み止めのようにさえ思える。だから、従来からある精神療法の多くは、患者の腹のまわりの緊張をやわらげることを中心にしているが、それらがまさにそのことを証明してくれている。

 神経症患者のほぼ全員が、胃に緊張が集中していると訴えているのは決して偶然なことではない。「言いたいことを、飲み込まなければならなかった」、「それについて我慢できない!」、「あなたの根性が憎い!」、「腹を割って話し合おうじゃないか」といった物言いは、その重要さを証明している。

 神経症患者は精神療法家が緩めてやるまで、自分の胃がどれくらい緊張しているか気づいていない場合が、きわめて多い。サイコ・セラピーなどを施している間に、緊張が胃を離れ、上へ昇っていき、胸がしめつけられ、次にのどに圧迫を感じ、歯ぎしりが起こり、顎が緩む。そして肝心なことを口にすると、もうそんなことはなくなる、と神経症患者たちは口々に訴える。

 「苦痛が胃から口へ昇っていくのを目撃できる」というのに抵抗を感じるかも知れない。しかし臨床の現場では苦痛はカラダのなかをのぼってゆき、叫び声となって口から出てゆく。そのとき患者は、はじめて自分の胃にしこりを感じなくなったと訴える。それまでは緊張のために胃が明らかに小さく固まっていたので、食べ物が完全に消化されることはなかったのである。

 しかし緊張のために、食べ物をとれなくなるとは限らない。その反対のことが起こる場合もある。食べ物を詰め込むことによって、自分の感情を押し戻すのである。緊張には降下と上昇の両面の現象がある。緊張の上昇は防衛機制が弱まり感情が意識に近づくときに起こる。不安という緊張の上昇は、食べ物をとることを不可能にする場合が多い。一方、緊張の降下は、神経症患者の感情を食べ物によって食い止め、緊張が不安に転じないようにすることを可能にする。一般的に言って、極度に体重オーバーな人は、深く隠された苦痛の持ち主であると言える。そのふくよかな脂肪の層は、緊張の降下に対する絶縁体の役割を果たしていることになる。操体で言う「アンバランスのバランス」とはこのことだ。

明日につづく