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東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

歪み⑥

日下和夫(くさかかずお)

昨日のつづき

 

 一般的に、よい姿勢と言えば、背筋を伸ばしている姿を思い浮かべるのではないだろうか。 だが、実際にはそうではない! 背筋を伸ばすようなことをすると、腰椎が過度に湾曲し、反り腰になって下腹部を押し出し、骨盤も前傾してくる。 このような姿勢は、最も反っている腰の部分に上半身の重さが乗って、腰椎に大きな負担がかかってしまう。 また、骨盤が前傾することで、内臓が骨盤から前下方へ滑り落ち、下腹部がぽっこり出てしまう。 そのような下腹部について、そんな体形を補正する下着が販売されているようだが、決して褒められたものではない。 

 

 脊椎動物の背骨というのは本来、圧縮に強く、柔軟性があるという性質のものだ。 魚は背骨を柔軟にして横方向(水平)に使い、そのお蔭で水中を高速で移動することに成功した。 また、四足歩行動物が走る時は、背骨を縦方向(垂直)に柔軟に使っているからこそ、全力疾走ができるようになった。 ということは、二足歩行動物であるヒトについても同じ脊椎動物であるから、背筋を伸ばし、筋肉を硬くして背骨の柔軟性を欠くような不自然な立ち方をしていると、運動能力が低下することになる。

 

 そんな背骨の土台になっているのは骨盤であり、その骨盤の仙骨に硬くなった背骨を接続して、からだの動きによる背骨の振動が起これば、土台である骨盤が壊れてしまうかも知れない。 このように背骨が硬くなるようなことになれば、骨盤を歪ませる原因になってしまう。 そこで、硬くなっている背中の筋肉をストレッチでほぐし、血行を改善して筋肉痛を解消させることや、筋トレによって筋肉を鍛えて筋肉痛を予防するといった方法が考えだされたのである。 しかし、そもそも背中の筋肉を使った対症療法的な考えにこそ問題があるのだ。

 

 治療家の中には骨盤の歪みこそが悪い姿勢の原因だとする人もいる。 整体やカイロプラクティックの先生は、骨盤を調整して姿勢を治している。 しかし、私もカイロの施術をしていたが、そのような治し方では、治療効果も一時的でしかなく、姿勢は再び戻ってしまうことになるのだ。 つまり、骨盤の歪みをとって姿勢を治すという方法は原因療法ではなく、単なる対症療法に過ぎない。 すなわち、骨盤の歪みそのものが姿勢を悪くする根本原因ではないということだ。

 

 健康体操や健康アドバイザーなどの健康指導の先生方は、「背骨の自然なS字カーブ」という言葉をよく使われる。 「背骨はS字カーブを描くのが自然だから、背筋を伸ばしましょう」と、いう意味だ。 具体的には、腰椎をエビ状に反らせて、背筋を伸ばし、胸を高くするといったところだ。 

 

 我々はこの「自然な」という言葉にとてつもなく弱い。 「良い・悪い」という言葉だったなら、何かしら極端性が感じられ、良い・悪い、のどちらにしても疑いや抵抗感をもってしまうものだ。 しかし、「自然な」という魔法の呪文を聞かされると、疑いの思考は停止し、何の抵抗感もなく受け入れてしまう。 この「自然な」という呪文はもっともポジティブな思考に心を変えてしまうことができる魔法の言葉なのである。

 

 私の施術院では人体骨格モデルを置いているが、その骨格標本の背骨は、いわゆる自然なS字カーブを描いている。 骨格標本には、内臓を受け止めている骨盤を持ち上げるような腹筋もついていないので、単純に骨盤が重力に導かれるように背骨からぶら下がっている。 このような背骨の標本を手に「自然なS字カーブ」を力説する健康指導の先生がいらっしゃるが、スタンドに吊り下げられないと立っていられない骨格標本と、生身のからだを持った人体とを混同することこそ不自然というものだ。

 

明日につづく