東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

おさめ④

 昨日述べたように、心の不快感を治めようとすれば、カラダの姿勢の悪い癖ばかりではない。 呼吸についての悪い癖や食事についての悪い癖、それに皮膚についての悪い癖などがある。 これらの悪習慣を改めない限り、心の不快感を治めることは不可能なのである。

 

 酒やドラッグや泥棒の悪癖までも、感化、懲戒だけで直そうとしても納めきるものではない。 カラダの方に間違った習慣がついている以上、それをまず納めてやらねばならない。

 

 心の形は、すぐカラダの形になり、カラダの形は、すぐ心の形になるという自然法則がある。 だから、心はカラダであり、カラダは心であるといえるのだ。 それを別々に切り離して、カラダだけの病気を治そうとか、心のみを矯正しようと、いくら努力をしてみたところで、効果があがるはずはないのである。

 

 心はカラダを支配し、カラダは心を支配するという仕組みはこうである。 心で笑うと、顔の筋肉もすぐ笑ってくれる。 それは今おかしく感じて、明日になってから顔が笑い出すというのではない。 一瞬にして、大脳~間脳~中脳~小脳~延髄~脊髄を介して、運動神経が働き、顔の筋肉が動かされて笑いにつながってくる。

 

 顔にハエがとまってウザいと感じるのも、一瞬にして、知覚神経を通して、大脳にまで伝達されたからである。 運動神経と知覚神経は、カラダと心の中間にあり、その両者を完全に一者にしているものである。

 

 カラダには、知覚神経や運動神経という意識的な神経のほかに、無意識的な神経である自律神経が働いている。 就寝時には、意識的な神経は休むことになるが、無意識的な神経である自律神経はむしろ活発に働き出す。 眠っていても心臓は拍動し続け、胃腸も蠕動し続けている。 そんな自律神経は、交感神経と副交感神経の二つの系統によって成り立っている。

 

 自律神経は、心臓ならば、交感神経系が縮めて、副交感神経系が拡げる役目を担っており、 胃腸ならば、交感神経系が拡げて、副交感神経系が縮める作用を受け持っている。 このように二つの対照的な神経系が、ひとつの器官を拮抗関係にして協力しながら動かしているのだ。 そして、大概の血管や内臓の不調は、この交感神経と副交感神経の拮抗関係が乱れて起こることが多い。

 

 その自律神経の中枢は、大脳の下にある間脳であるが、 この間脳が大脳に起こる感情をまともに受けて、不快な感情を持つとたちまち自律神経に不調を引き起こすことになる。 高血圧症や糖尿病などは交感神経系の失調であるし、胃潰瘍や癌などは副交感神経系の失調であるとみてよい。

 

 この自律神経も、知覚神経や運動神経と同じく、心とカラダとの二つを一者にしてしまう接着剤の役目をしている。 そんな自律神経の失調を起こす要因は、食事の悪い癖としては、動物性食品などに偏った食べ方をしていると、交感神経失調を起こして、怒りっぽくなってしまう。 また、加熱調理した煮野菜などばかりを食べていると、副交感神経失調に陥って、クヨクヨした性格になってしまう。

 

 他にも、カラダの不自然な使い方として、背部の椎骨に関わる運 動ばかりしていると、交感神経系を刺激して暗い性格になり、逆に腹部の筋肉に関わる運動ばかりをすると、副交感神経系を刺激して落着きのない性格になる。

 

 このように、自律神経を仲介として、心とカラダというものは離すことのできない表裏一体のコインになっている。 どこを、どう押そうとも、心とカラダにおいては、密接な関係というよりも、一者の両面というほかはない。 それが恐るべき身心相乗の原理を収める機転なのである。