東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

2008年春季東京操体フォーラム 特別対談 人間・橋本敬三を語る その2

三 ミヨちゃん、橋本先生はどんな食生活を送ってました?
美 お昼ご飯、若先生の奥様が必ず腕によりをかけてお昼ご飯を必ず作って下さって、私も先生と一緒に頂くんですが、とにかく何を食べても、何が出てきても、とにかく美味しい、と。本当に感謝する以外ない、と。すごく美味しいんだと言って本当に感謝して食べておられました。
三 やっぱり、言葉にする必要があるね。例えばケーキを食べるにしたって、言葉に出して感謝すれば毒が消えるかもしれないな。なるほどね。
美 あと、先生は「あんこ」が、大好きで。この世にこんな美味いものがあるのかと、という位にあんこが好きで、毎週和菓子屋さんから水曜日に『鹿の子』っていうあんこ玉が届くんです。それが届くと、とにかく美味しい、幸せだと。それを食べながら、この世の中に、あんこが嫌いな人間がいるのか、と。
三 ミヨちゃんは嫌いなんだよな。ウハハハ・・・・。
美 あんこっていうものは、私にとってこの世に存在しなくていい食べ物だったんです。とにかく嫌いで、あんなにまずいものがこの世の中にあるのかと。ですが、それを聞いた瞬間、さすがに私も言葉に出せなくて。そうしたら、とにかく美味しいから食えと。
(会場爆笑)
三 食べたの?
美 泣きながら食べました。ここ(喉を指して)に詰まりながら飲み込みましたね。その後胃腸薬を飲まなきゃいけない。甘いものを食べるとどうもこの辺がむかむかしてくる体質で、胃腸薬を飲みながら、一個食べるのも死ぬ思いで食べてました。それが今となっては、あんこ、美味しいと思える今日この頃です。(会場笑)
三 なるほどね。でも食えっていわれれば、イヤとは言えず、やっぱり食べないわけにはいかんもんな。
美 そうなんです先生がとにかくあれだけ美味しい美味しいって食べてるものをけなすわけにはいかないし、そこはもう私が折れるしかない(笑)でも毎週届くっていうのが(会場爆笑)、地獄でしたね(笑)
美 ええ。それから裏に冷蔵庫がありまして、そこに必ず入ってる物があるんです。バナナの冷凍。あと巨峰っていうぶどうの冷凍、あと、近くの甘座(あまんざ)っていうケーキ屋さんがとにかく大好きで、そこで作るシュークリームがとにかく美味しいんだと。そこのシュークリームを買ってきまして、それを敢えて冷凍するんです。とにかくそれを買ってきたら、冷凍しなくちゃいけない。その冷凍したものを、その日の気分で、※こういうサインが出た時は、巨峰を3つ持ってこなくちゃいけない。それが何気なく出て来るので、見逃さないようにしなきゃいけないんです。これが出た時は即行で冷凍庫から巨峰を3つ。それが決まりで、あとバナナはこう。指先でモノを語るんです。その3種類は必ず冷凍庫に入っていて、その日の気分で選ぶわけですね。で、その冷凍シュークリームなるものを初めて冷凍で食べて、どこが美味しいんだかわからない。でも、それが美味しいんですって。私はそのままの方が美味しいと思うんですが。


※注)美代子氏によると、バナナの時は人差し指一本を立ててひゅっと動かし、巨峰のときは人差し指と中指と薬指の三本を立ててひゅっとする感じだそうである。


三 僕の時代はね、渋柿。ほっておくと甘くなるでしょ。あれを冷凍庫に入れて、シャーベットにして食べてたね。こだわりがあるんだよね。先生。
美 こだわってますよね。バナナの冷凍っていうのもどうなのかなぁと。


※※注)畠山が美代子氏から聞いた話によると、橋本敬三医師と、冷凍バナナを美代子氏が手で折れるかどうか、一万円の賭けをしたことがあるそうだ。橋本敬三医師は絶対折れるわけないと、折れない方に賭けたが、美代子氏があっさり冷凍バナナを折ったので、美代子氏は一万円手に入れたそうである。


三 橋本先生と5,6年一緒に過ごして、温古堂の診療室で同じ空気を吸って、先生から感銘を受けた事とか、今でも何か実践している事はありますか?
美 感銘を受けた事は、やっぱり感謝するって事ですね。常々言っておられたのが、人間は口に出す方向に進んで行くんだ、いうことですね。ありがとうっていうのは、ありがとうになるし、馬鹿野郎っていうのは馬鹿野郎の人生になると言っておられまして、とにかく感謝していれば幸せになれるんだと。今も「人間は口に出す方向に進んでいくんだ」、というのは頭から離れませんね。
三 何がからだにいいとか悪いとか言う前に、感謝することじゃないの?ありがとう、ってネ、口に出せば、毒も消えて無害になるかもしれない。本当にありがとうっていう言葉を意識して言葉にすれば、全てからだにいいものとして働いてくれるのではなかろうかと思うね。




三浦、畠山に向かってビデオを流すように、なおかつ音は消すように指示する。スクリーンには、温古堂時代に今顧問が撮影した橋本敬三医師の日常生活が流れる。


三 (東京操体フォーラム実行委員から寄せられた美代子氏への質問一覧を見ながら橋本先生が、患者さんに対して必ず言っていた言葉があるかなァ?
美 きもちいいことすれば、からだは必ず良くなるんだ、痛い事を無理してやるからおかしくなるんだ、というのは一番最初に患者さんに言っていましたね。普段の皆さんの生活って、痛いことを無理してやれば良くなるっていうような教えみたいになっているじゃないですか。それで、きもちいいことをやるということに対して、罪悪感みたいな事がありますでしょう?
三 一般常識的には、きもちいいという事、そういった言葉をすら口にすると罪悪感があるみたいな社会的観念みたいなものがある感じはするね。操体をやっていて感じるよ。きもちよさをききわけて下さい、っていう意味の「きもちよさ」っていう言葉すら口にするのに多少勇気がいるような時代がありましたね。
美 それで、俺が治してるんではない、全部自分の力で治ってるんだ、と常に患者さんには言ってました。人間のからだはそうなってるんだ、と。
三 あと、頑張るな、って言うことも言ってたんじゃない?
美 そうですね。60点取れればいい、というのは言われていたので、何でそれ以上70点じゃだめ?って聞くと、それは欲張るし、その欲張るっていうのが怪我するもとなんだと。まして100点なんか取る必要はない、綱渡り人生でいいんだ、と。間に合っていればそれでいいんだ、と。だから60点でいい、ということを言われました。
三 間に合ってればいいと(笑)。ところで、逆に先生の愚痴って聞いたことある?
美 愚痴?愚痴言う前に私に当たってましたから。今日は機嫌が悪いぞっていう時は、全身に現れていて、それが私にぶつかってくる。
三 そうか。あのね、あんまり愚痴を言うような先生じゃないんですよ。滅多に愚痴を吐かないけれど、医者として患者を憂える一つの愚痴としてね。「いくら言ってもわかんねぇ」そりゃ愚痴だろうな。でもそれは相手を思っての愚痴なんだよね。でも僕は余り聞いたことがないなぁ〜。
美 (温古堂で治療が終わって)帰るときまだ満足しきれない方とかいるじゃないですか。(三浦、頷く)そうすると先生、肩の辺りが上下して。(笑)そこで先生、一言「肩だけおいでけ」と。(会場笑い)「明日まで治しといてやっがら」(会場笑い)それはできない相談ですよネ。やっぱり全部(体は)一つなんだって事を訴えたいんですけど、なかなか理解して下さらないお客様や患者さんもいるので、肩が、頭がとか、そこだけ置いてけ、明日まで治しといてやる、っていうのは良く言ってましたね。
三 臨床やってると、「やっぱり先生、もう少し肩が」とかね。もう今日はここまでと、キリがついているんですよ。それをね、先生、ちょっとここも、って言われると、気が入らないんですよね。そういった経験っていうのは、皆さん方臨床のなかで結構体験しているんじゃないかと思うけど、それは切らないといけない。いつまでも引きずっちゃう。で、それでも診てると、先生今度はここが、って、全然しまらない。そういった時はやっぱりバッサリ切るっていう事も必要になる。橋本先生もそうやって※ごしゃきながら切っていたんだよ。肩置いてけ、そら、目ン玉置いてけとか言いながらネ。


※ごしゃく 仙台、東北弁で、怒る、怒鳴るの意味

三 患者さんから見た橋本敬三のイメージとか印象っていうのはどうでした?
美 私が入った頃は、もう温古堂っていうのは非常に有名な診療所になっていて、あそこに行けば一発で治るという噂が全国に流れてたんですね。それで、橋本先生が言うには、ここは治療の墓場だと。要は病院回るだけ回ってどうにもならないって、占いにも行って、神頼みもして、それでも良くならない。で、最後に行き着くところが温古堂。それで、ここは墓場だ、って、おっしゃってました。
三 実際にはね、一発で治るかと言えば、まあ僕も見てるけど一発で治った患者様もいらっしゃったよ。しかし一発で治るわけないからな。そこは何でも一発で治るんですか、何て思わないこと。僕のいた時代っていうのは、橋本先生が70歳から75歳の間でしたけど、まあ苦戦してましたね。ビデオに出てるように、あんなに簡単に「はいっ」っていう訳じゃなくて、患者をひっくり返して、また、立たせ、寝かせ、腰掛けさせてネ、このからだにどんな歪みがあるのか、それを解決すれば、どのように患者の全身リウマチが治るのか、全身性エリテマトーデスが治るのかって、本当に真剣に取り組んでいましたよ。その時代の橋本先生の臨床を見ていたら、一発で治るなんていうのは、先生に対して失礼ですね。神様じゃあるまいし。だからそういった意味で、どのような臨床でもそんな一発で治るものでもない。何故かっていうと、治療を受けに来ている訳だから、それは、続けないと治らないような患者が来ていますよ、って事。慰安で来てるんじゃないって事なんだ。症状疾患を抱えて来ている患者が、何で一発で治るのよ。(会場に向かって)そんな臨床をもしも君達が望んでいるのであれば、やめた方がいいよ。一発で治そうなんて。でも治るものもあるんだ。それは理に適うことがあるから治るわけだから。でもね、どんなものでも一発で治していた、なんて、そりゃ橋本先生に失礼だよ、と俺は思う。臨床っていうのはそういう訳にはいかないよ。
三 橋本先生がテレビに出た頃は知らない?
美 その頃の事はわからないですね。
三 79歳の時にNHKのテレビに出て、何年か後NHKのラジオ、「人生読本」に出演されました。あの当時僕は(仙台に)行かなかったけど、電話で聞いた。もう門前市を成すって感じで患者がひっきりなしに来ていたと。それが三年くらい続いたんだよ。あの時代っていうのは、橋本先生が快適感覚っていうことに対してどのように診断として臨床に導くのか、そのことを考えつづけていたのだと思うんだけど、(NHKの)番組でやってたように、はい、つま先(上げて)、すうーっと、はい、ぱんぱん、それで終わり、はい、次、そういった診療しかできなかったの。あの時代は余りにも患者が来すぎて。橋本先生にもっと研究の時間を与えてあげたかったな、と思いますよ。とにかく患者患者で明け暮れていたわけだから。余りに患者が来るんで貴重な時間、研究する時間、そういった時間が奪われてしまったんじゃなかろうかと思いましたネ。
三 橋本先生の実際の臨床をミヨちゃんは実際に見たことがあるよね。あれば他の人との違いはどんな風に感じました?他の人っていうのは、他の先生っていう意味だと思うんだけど。橋本先生と他のお医者さんとか他の治療師との違いっていうものは側で感じていました?
美 私にとってはそういう存在ではなかったし、他の先生との違いって言っても、皆さんいらっしゃる方は勉強したくって、長年色々なことをやって、手を尽くして先生に質問している、みたいな。
三 でも結構著名な先生方も来てたよね。.あの当時。そういった先生方と違うところがあったとか。
美 難しいですね(笑)どの先生にも「ウソかホントかやってみるしかない」って。操体を学びに来る先生しかいないわけですよね。どの先生にも分け隔てなく同じように、患者さんに対しても、医者だろうがそうじゃなくてもやっぱり言ってる事は一緒で。
三 垣根がないよね。
美 そうですね。ちょっと有名な方が来られると翁先生が敬語になられたのはちょっとおかしかったですね(笑)
三 ミヨちゃんしか知らない橋本敬三先生の秘密ってありますか?「美代子、これはちょっとナイショにしてくれ」っていうのは。
美 秘密ですか?
三 橋本敬三の秘密。ミヨちゃんしか知らない。
美 どの程度の秘密ですか?
三 どんな秘密か僕は知らんけど。
美 スケベ心は山ほどありましたね。 会場笑
三 すけべごころ?!ああ、それそれ、それ行ってみよう。
美 やっぱり男ですよね。
三 ほう。例えば。具体的に?
美 ちょっと私ヤキモチ焼くんですが、私の前にいた受付の女性の方、お気に入りだったんですよ。もう秘密じゃないんですヨ!みんなの前で堂々と「オレ、オマエにラブしてんだよぉ」って言ってました。(会場笑)もう、バカヤロウ、とか思いましたよ(笑)。もう、堂々と告白してましたね。でも後藤先生にさらわれていってしまいましたけど。ざまあみろって(笑)それから温古堂の座布団から立ち上がる時、結構力がいるんですが、その時私が抱えて持ち上げるんですよ。これはナイショの秘密なんですけど(笑)。先生は必ず私のここ(胸元を指さす)に決まって顔を埋めてくるんですよ。(会場爆笑)そこまでやる必要ねぇだろ!って。ここですよ。ここにこう、顔を・・・(笑)で、それを見ていた稲田君が「先生、やるじゃない」って。(三浦・会場爆笑)
三 そんなことあったんだ(笑)
美 結構若い女の子が大好きで、そういう雑誌のページも大好きで、「ヒッヒッヒッ」って見てました。 (会場大爆笑)そういうところが茶目っ気あって、でも全くいやらしくないんです。(ビデオを見ながら)あれは外科の受付のBちゃんっていうんですが、あのように何気なく若い女の子に触るんです。あれが元気の源(笑)。
三 いやらしくないっていうのはいいよな。不快感を与えずにっていうのはさすがだね。
美 一番印象に残っていることがありまして、つま先上げる時、足に抵抗をかけてもらうじゃないですか。(足関節の背屈)その時の先生の手の感触が未だに忘れらないですね。ものすごく柔らかくて、安定感があるんですよ。ぱっと見には全く想像できないような手の感触なんです。表現し難いですね。あの感触は。それはこれくらい年月経っても忘れられない感触なんです。
三 感触。手の感触ね。うん、本当にそうだな。何て言うんだろう。あの手の感触は。不思議な手でしたね。見かけは普通なんだけど、触られると何てあったかなふんわりとした手をしてるんだろうと思ったものネ。


ミヨちゃんにはまた来てもらうからね。来てくれる?ミヨちゃん。ええ。喜んで。(会場笑い)ありがとうございました。
三 来年辺りね。貴史も来いよ。今日はどうもありがとうございました。



後半おわり。おまけに続く