東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

心とからだの研究(五日目)

昨日の続き
からだの筋肉や骨や関節について解剖学的な様子がわかったところで、今度は姿勢について考えてみたい。我々人間にとって姿勢はさまざまな体位をとることができるが、基本的な姿勢は「立位」、「座位」、「仰臥位」である。それらのどの姿勢にとっても脊柱は重要な役割を果たしている。
物理学によると、物体が倒れることなく均衡を保つための必要条件は、重力の軸がその物体の重心を通過していることである。立位および座位の姿勢では、脊柱がまっすぐに伸びて、からだの重心は腰椎部分にあり、重心の軸はこの重心点を通って、立位の場合であれば、わずかに開いた二本の足によってひとつの三角形を構成している。椅子座位の場合だと、重心を通る軸は股のあたりに移る。このような自然な物理的均衡状態を保つことができる場合には、脊椎における筋肉の緊張は最小ですみ、全体重は脊柱すべての関節に分散してかかり、調和がとれたバランス体といえる。
ここで立位から前屈しようとする場合を考えてみると、からだの重心は前方へとずれていくが、それによって重力の軸も開いた両足の間や股から、その先の前方を通ることになる。それは結果的にからだの平衡状態が乱れ、アンバランスになるので、修正運動をとらなければならなくなる。こういったバランスの調整は脊椎辺縁筋群があるおかげで、姿勢の均衡や屈曲、背屈、側屈、捻転などの動きが可能となるのである。ところが、この筋肉群の緊張がある時点まで高まると、「背中の痛み」が現れてくることになる。
これらのことからわかるようにアンバランスの修正運動がなされるには、中心軸である脊椎をまっすぐに伸ばしておかなければならない。操体動診においても、脊椎をまっすぐに伸ばした状態から動きを通さないと、自然な連動に導くことができなくなる。この脊椎をまっすぐに伸ばすことは、脊椎の筋肉をバランスよくするというだけでなく、神経系が調和のとれた働きをする上でも大変重要なことである。また、人間の尊厳を最もよく表現する手段として、脊柱をまっすぐに伸ばした自然な姿勢がいかに大切であるかということは、ギリシャの彫像やヒンズー寺院の神仏像からもみてとれる。
この神経というのは背骨の中を通る脊髄から椎間孔を通って外に延びており、各神経幹は運動神経、知覚神経、自律神経からなっていて、背骨をまっすぐに伸ばしておくことは、心理面にも重要な効果を及ぼしている。からだの物理的な平衡と心の精神的な平衡は密接な関係にあり、からだのバランスを失うと、心のバランスを保つこともできなくなる。憂鬱な気分にあると、肩を落とし、背をかがめた、いわゆる猫背の姿勢になって脊椎辺縁筋は慢性的に緊張し、背中が痛むようになってくる。この慢性的な背中の痛みはやがて精神的な抑圧状態に陥り、こうした悪循環が続くと「心身症」という病名が与えられることになる。背骨を中心とするからだの姿勢がいかに大切であるかということがよくわかる。からだの重心やその軸の移動について、操体ではからだの使い方・動かし方という「自然の法則」として教えているが、それらはみな脊椎の筋肉に負担をかけることなく、脊柱はもっともバランスよくからだを支え、動作を助けることができる。自然の法則とは、いわば「からだの取扱教本」なるものである。
明日に続く



三浦寛 操体人生46年の集大成 "Live ONLY-ONE 46th Anniversary"は2012年7月16日(海の日)に開催致します。