佐助が担当する4日目です。今日は視覚とからだ(認知)の不一致について触れたいと思います。よろしくお願いします。
からだは常に、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・体性感覚などの感覚を活用して、外部の環境や対象の情報を知覚していますが、基本的に各種の感覚情報は分散並列処理されながら、必要に応じて排他原理に従って各感覚情報が統合されています。からだの錯覚は、この感覚情報の統合に不一致が生じているということになるのではないでしょうか。
例えば、電車に乗っていて隣の電車が動きはじめたとき、実際には動いていない自分の乗っている電車が動き始めた感覚になることを感じたことはないでしょうか。
自分が動いていると感じる自己移動感覚の基本は、「自分が歩行している時」の視覚情報や体性感覚情報が一致していますが、電車などの乗り物に乗っているこので、足の体性感覚と切り離された視覚情報だけで自己移動感覚が生じるそうです。からだが移動する時には、外部環境で視界に収まっている各点が、眼球の網膜上を一定の法則に従って移動します。この外部環境の視界に入っている点が動く時には、網膜上に光の流れが起きますが、この光の流れを「オプティカルフロー(optical flow・光学的流動)」と呼ばれるそうです。
Dichigansらの実験によると、自分が動かない場合の自己移動感覚は、光刺激の提示時間が3秒以下で極端に短いと余り感じられませんが、5秒以上の提示時間があればある程度しっかりとした自己移動感覚を感じることが出来るそうです。対象のオプティカルフローの速度が、1秒間に視野の90度以上あれば、自分が動かなくても自己移動感覚を感じますが、視野の中心部(視野の30度以下)のオプティカルフローは自己移動感覚ではなく対象の運動を知覚することになります。反対に、視野の周辺部のオプティカルフローで、移動する対象の数(光の点)が多いほど、自己移動感覚を強く感じることになるそうです。
Johanssonの1977年の実験によれば、視野周辺部(40〜90度)のオプティカルフローであれば、全視野の2〜3%の領域であっても自己移動感覚を感じるということなので、自己移動感覚に対する視覚情報の働きは相当に大きいという事が分かります。自己移動感覚は通常、自分が歩いている場合には視覚情報と体性感覚情報の影響を受けていますが、その割合は視覚情報のほうが大きいと考えられているそうです。
現代の文化から考えると、自分のからだの体性感覚と多くの情報を受け取る視覚情報との間に感覚不一致が生じ、その不一致から生じるからだの不調との関係が考えられるのではないでしょうか。
操体法でおこなわれる感覚のききわけ(感覚分析)は、今回書いたような視覚情報と体性感覚との不一致をも解決する糸口が隠れているように感じます。
今日はこのあたりで・・・。ありがとうございました。
2013年7月15日(月)の海の日に、東京千駄ヶ谷 津田ホールにて、操体マンダラ 2013を開催致します。