昨日のつづき
ヒトの立位を側面から眺めてみると、姿勢と重力との関係がとてもよくわかる。 頭頂と股関節の中心が垂直に結ばれて、その線が踵とつま先の真ん中に落ちているような姿勢が自然な立ち姿である。 こうなるには、背筋を伸ばすのではなく、うなじを伸ばす必要がある。 この時、頭と胴体との重量は、仙腸関節にかかってくるが、それを受け止めている股関節は、その垂直線下の位置にはない。 だから年をとるに従って、頭の重心が落ち、恥骨が前に出て仙腸関節の重心も落ちてくると、もともと狂いやすい仙腸関節が、ますます外れていくことになる。
そうなると、骨盤内の器官がまず傷害され、次に両脚が弱まり、やがて全身に連動して歪みが拡大してくる。 そこで恥骨を後方に引くことにより、仙腸関節が前に出て、結果的に股関節が仙腸関節の重心に近づいて、関節が安定してくるのだ。 そのようになれば、一日中立ち働いても仙腸関節は外れにくくなる。
直立二足動物であるヒトは、膝と股関節を曲げる必要がなくなった地上初の動物である。 しかし、自然に膝と股関節が伸びているわけではなく、筋肉を使って積極的に伸ばしておかなければならなくなった。 それが証拠にヒトの股関節の靭帯は、まるで四足歩行時代のなごりであるかのような付き方をしている。 それに大腿骨骨頭部は、四足歩行状態では臼蓋にピッタリとはまった状態であるのに、直立二足歩行になると骨頭の一部が横にはみ出し、その靭帯は巻き付いた状態になっている。 そうなると、骨盤は後ろに傾いて、腰が反り身になってくるわけだ。
人類は、直立二足を維持し、膝と股関節を伸ばしておくために必要な筋肉として、大腿部裏側のインナーマッスルであるハムストリングスと下腿のヒラメ筋を使うようになった。 それと大殿筋、中殿筋、小殿筋といった殿筋も大腿骨を後ろに引っ張って、直立二足歩行を可能にした貢献者である。 これに加えて拇趾の屈曲筋も、立つことと歩くことに必要な筋肉として重要な役目を担っている。 足趾のうち、この拇趾というのは特別な意味を持っている。
操体では、拇趾を運動力点、運動作用点にすることを教えている。 年をとると、股を開いて歩くようになるが、それは膝と股関節を伸ばす筋力が弱って縮んでくるからだ。 すると、膝と股関節が屈曲し、特に股関節は外転して、それがO脚をつくることになる。 O脚になると歩行を困難にし、脳に悪振動を与え、肝臓をも弱めることになってしまう。 そこで拇趾に力を込めることによって、股関節の外転を防ぐことができるのだ。 これこそまさにアンチエイジングである。
直立二足形態の最も基本的な、「立つことと歩くこと」において、何といっても主役は筋肉であることに異論はない。 だが、その筋肉の使い方によっては、からだの歪みが大きく左右されることになる。 そのような筋肉の使い方については必須条件がある。 それは「肩と頸の力を抜くこと」、「下腹部丹田に力を込めること」、そして「肛門を内に締めること」の三つである。
肩と頸の力を抜くのは、心臓からの血流が硬くなった肩と頸に妨げられることになるので、肩と頸の力を抜かないと、頭脳への血液循環が落ちてしまうからだ。 次にからだ全体の重心である下腹部の丹田に力を込めることによって、腹筋力をつけて仙腸関節のずれを防止することができる。 最後に肛門を引き締めるのは、丹田に力を込めても、肛門が緩んでいたのでは、穴の開いた風船と同じだ。 そんな肛門締めはまた、大腸を直接刺激して、排泄力を高めてくれる。 そればかりでなく肛門締めをすることによって、脳髄をも直接刺激するので、脳の血液循環を高め、理性や感性もよく働くようになる。
明日につづく