H OX遺伝子は親趾スイッチであった。
私たちの足にずんぐりした太い親趾が現れ、歩き走れる突然変異が促された。
親趾以外の8本の趾は短くなり、踵は長く細くなり、小さな骨と土踏まずからなる複雑なシステムも作られる。
前後左右に体重が移動するたびに、感覚システムが衝撃を吸収してくれる。
やがて、全身の骨の数4分の1がくるぶしから下に位置するまで進化して、親趾も十分に発達し体重の40%を支えられるようになった。
全身体性を支える骨も、合計141個の腱や筋肉や靭帯で繋ぎ合わされると、体重の20倍をはるかに超えた圧力を受けても捻挫しにくく耐えられる。
からだの設計にミスは無い、と言えるようになったのも人間の足がこうした親趾の突然変異とも思える複雑な構造変化が生命に働いているからなのである。
(続く)