東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

操体庵ゆかいや物語(14)

              祇園祭
                            

「佐伯さん、あのアドバイスはホンマに助かりました。」




7月14日の祇園さん(集落の祭り)が無事終了し、お宿(舞いの練習をする家)で宴が行われている時のことです。


私に話しかけてきたのは、Dちゃん。
Dちゃんのお父さんは、私のようなIターン移住者と地元の方々との共存を積極的に推進した方です。
その地道な活動のお陰で、今では祇園さんの役者6人の内、4人までは移住者。お囃子の笛吹も半数は移住者、私のような手伝人にも移住者がかなりいます。


Dちゃんは、今回初めてお多福の役を演じました。


この祇園さんと呼ばれる祭りは、京都の祇園祭とは関係ありません。300年の歴史がある地域の祭りで、3人の奴(やっこ)とお多福、ひょっとこ、爺(じい)が神社の舞台で大太鼓を叩きながら、舞います。
 

奴の顔は、白塗りに墨と紅で大胆に描きその他の役者はお面をかぶります。
笛にあわせて太鼓を叩くため、叩くことより舞うことの方が重要。


地元の人は、それぞれの舞いにあわせた笛の旋律を幼い頃から憶えているので流れが分かっています。しかし、移住者にとっては一から憶えなくてならないので、祭りの一週間前から特訓が始まります。


私は、仕事の都合で練習に参加できたのは一日だけでした。
練習といっても、私は子供達と役者の練習を見るだけです。そこで、操体的視点からじっくりと観察しました。


役者は、1m位の高さに置かれた直径1m位の太鼓を、30cmくらいのバチを両手に持ち叩きます。


叩き方は、右足を踏み出しそのあと、右手首を外旋しながら軽く捻るようにしてたたきます。そのあとに左足踏み出し、左手首捻り。いわゆるナンバと呼ばれる動作になります。
この基本動作を身につけた上で、それぞれの役にあわせたしぐさの舞をするのです。いずれの役も、身体運動の法則に従った動きをすることで、美しく表現されます。


特に重要だと感じたのは、運動作用点の足心(第一趾、基節骨骨頭)と床との微妙な角度。それに役柄に応じた目線と呼吸でした。
つまり、足心と床との微妙な角度で重心移動が決まり、それぞれの役に応じた舞になり、それに目線をつけることで表情、動きが豊かになるということでした。


Dちゃんは、奴の男性的な役から、今年はお多福という女性の役に代わった為、大変そう。


しかも、お父さんは、お多福の名役者。どうしても、地元の人はお父さんと比較してしまいます。
父親に教わりながら必死で舞うDちゃん。微笑ましい光景ではありますが、Dちゃんにとっては、相当のプレッシャーです。


その日は、お父さんの師匠であるYさんと二人でDちゃんの指導。


「舞うときは、肩を上げたらあかん。こうやって、下げなあかん。」


と二人は大ちゃんの前で見事に舞います。
ますますプレッシャーのかかる大ちゃん。意識をすればするほど、肩は上がってしまいます。


この舞いは、上肢を1/2屈曲位にし、手関節を掌屈位にとった状態でバチを持ちます。
丁度、幽霊がバチを持った状態です。そして、その場で、右足を軸として、右回旋し元の位置に戻る舞です。この足の動きに準じて同側の上肢を内旋するのです。
本来、手関節を掌屈位にとると、肘が上がりそれに連れて肩も上がります。これは、からだの正中線から遠ざかる遠心性の動きです。その肘を無理矢理1/2に折り曲げしかも、舞うときは手関節を内旋させるのです。
内旋の動きもまた遠心性です。


当たり前にこの動作をとれば、肩は上がります。それを下げろというのですから、、、、Dちゃんも大変です。


Dちゃんはバチをしっかり小指を使って持っています。これは、『手は小指、足は親趾』という重心安定の法則に一致しています。


しかし、この舞いにおいては不都合がおきます。たとえば、右手の小指だけで握ろうとすると手関節は外旋していきます。しかし、大ちゃんは手関節を内旋しなくてなりません。大ちゃんがしっかり小指で握ろうとすればするほど窮屈になっていくのです。


Dちゃんの二人の師匠は、からだを通して実感できているのですが、その方法を指導するまではいってないようです。
このことを、感じながらも、その日にはアドバイス出来ずじまいでした。


7月12日(祇園祭の2日前)、東京の操体勉強会出席のため、上京。
三浦先生に助言を戴くことにしました。
すると、


「親指に呼気を通すだけでよい。」


と明快な解答でした。そこで、早速、携帯電話でDちゃんに助言。


私は夜行バスで、祇園祭の当日京都まで帰り、朝10時からはじまる式典には参加することができました。


Dちゃんを見つけ出し、
「どうだった?」


「バッチリ!」と笑顔で指OKサイン。


一安心です。


そして、宴会の席に戻ります。


「えっっ、あの電話、東京からやったんですか?
ホンマ、あの助言で安心してやれました。今度、佐伯さん、それぞれの役の舞やバチさばきのポイントを教えてくれませんか?
そしたら、憶えやすいし、みんなが色々な役を出来るようになるし、、、、」


Dちゃんが安心できたのは、私からの助言を通して身体運動の法則を体感できたからです。からだの凄さ不思議さを感じたのだと思います。


祇園さんの舞を操体の視点から捉え、理にかなった舞を明確に美しく表現するためのアドバイスをおくる。


まあ〜、そのようなおこがましいこと、私にはまだ早いと思います。
ただ、操体の視点で、このような伝統芸能を見ることの面白さ、そして操体の広がりとその深さをしみじみと感じることが出来る一日でした。
                               


おしまい


随分、ローカルな話になってしまいましたが、一週間のお付きあいどうも有り難うございました。
まだまだ、猛暑は続きそうですが、体調には充分気を付けて、無理をなさらないで下さい。


来週からは、おまたせしました、時代の寵児、われらがヒーロー格闘家の平直行さんの登場です!
                            

お楽しみに!!



佐伯 惟弘




東京操体フォーラム実行委員ブログ(仮)は
人気ブログランキングに参加しています。
にほんブログ村 健康ブログへブログランキング・にほんブログ村へ