東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

感覚のフィルター機能(2)

 5日目です。昨日の続きですがよろしくお願いします。
 農業などでからだを毎日酷使している場合、特に五感を使わない流れ作業は感覚フィルター機能により、感覚の聞き分けが難しいからだになっているように感じます。
 そこで感覚の聞き分けがしやすいからだに戻すにはどうしたら良いのでしょうか。
 感覚の聞き分けができないといって頭で考えてはダメです。頭で考えて何かをするのではからだを酷使しているのと同じで自我によるものとなり、脳内で快楽物質・ホルモンの分泌やからだの無意識の反応につながりません。
 最近僕は、感覚の聞き分けがなかなかできない方に対して、普段家庭で感覚を磨く・感覚を味わう練習をしていただいて、からだには大切な感覚があることに日頃から目を向けていただくようにしています。日頃からからだの感覚に目をむけてもらうことで、都合で通院間隔があいてしまっても、からだへの聞き分けがしやすい状態に感覚を整えていてくれるように感じます。
 ある大工の男性を簡単にご紹介します。この方は、脊椎すべり症、頸椎椎間板変性症、緊張性頭痛、軽度ですが帯状疱疹後神経痛とたくさんの診断名があり、いろいろの病院や治療所を廻っていても改善がみられず、痛みによるストレスから不眠が続き、大工の仕事を辞める覚悟をしていたところにある方の紹介で出会いました。
 診させていただくと、からだは痛みにたいして敏感になっているのだと思いますが、痛みの不快はわかるものの、からだの左右比較の動きやすさも分からないぐらいに感覚フィルター機能が強い状態にありました。そこで感覚を磨くために、仰臥位で目を瞑った状態で、からだと床との接触・圧感覚の左右差(例えば左右の肩甲骨)の違いを感じることや、洋服が皮膚に接触する感覚を感じる、肘の屈曲する際の動きの角度による感覚の違い(仰臥位では初動作は抗重力位となるため重力や筋肉の張力なども感じられるはずです。)を感じたり、耳を澄ましてみると普段聞こえない音を感じてもらうよう指導しました。このように普段では使わない感覚を感じてもらうことで、五感が磨かれるのではないかと考えたのです。
 そして一週間後にお会いすると、からだは仰臥位で一番くつろげる方向(極性リズム)も聞き分けられるようになっており、もちろんからだに聞き分けることも自然にできるようになっていました。あとはからだに感覚を選択してもらいながら、第二分析と第三分析から質の高い快適感覚を十分に味わっていただきました。
 さてこの大工さんの経過はどうなったでしょうか。
 実は見事に症状が改善され、大工の仕事に復帰されました。僕は診断名を治療しようとしたわけではなく、普段使わないだけで本来のっている潜在能力の感覚を使うよう指導し、あとは快適感覚を味わっていただくことで、からだの治癒能力・免疫能力が元の状態に向いたのだと思います。からだの感覚に感謝です。
 ちなみに大工の仕事復帰前に「仕事の準備体操」と言って「感覚を楽しみながら作ったから、もしよかったら家で使ってくれ」と僕に治療用ベッドを手作りでプレゼントしていただきました。子供が飛んでも跳ねてもいいように丈夫に作っていただき、そして厚い畳がまた気持ちいいです。大切に使わせていただきます!
 ありがとうございました。


佐助


新刊情報:皮膚からのメッセージ 操体臨床の要妙Part Ⅱ(三浦寛著)、たにぐち書店より発売。 
11月20、21日千駄ヶ谷津田ホールにて2010年秋季東京操体フォーラムが開催されます。
2010年8月、社団法人日本操体指導者協会を設立しました。