東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

感覚のフィルター機能(1)

 四日目です。よろしくお願いします。
 最近患者さんのからだと向き合っていて思うことがあります。そこで僕が患者さんのからだを通して感じたことを書いてみたいと思います。
 僕の所には地域がら、農業や林業または大工の方など仕事としてからだを使っている患者さんが多く来院されます。僕も朝4時には畑に出てレタスなどを出荷しているのですが、最盛期の農家の方はからだを酷使している毎日です。(大規模にレタスを出荷されている方の中には、夜中1時から畑に出ている人もいます。)
 からだを酷使している方のからだを診させていただくと、感覚の聞き分けが難しいからだになっているように感じます。中には、仰臥位で両膝の左右傾倒で動きやすさを確認しても(動診はゆっくり動くことで感覚が確認できます)、あきらかに可動域にもスムーズ差にも第三者がわかるくらいに左右差があるにも関わらず、「左右差が分からない」と言われる方もいます。
 なぜここまで感覚の聞き分けが難しいからだになったのでしょうか。
 脳から考えてみたいと思います。
 からだの感覚には臭覚・味覚・触覚・聴覚・視覚のいわゆる五感に加えて、動覚を合わせた六つの知覚があります。この六つの知覚の情報を常時感じていると、様々な知覚・感覚の情報が多すぎ、不必要で無関係な信号が大脳皮質に過剰に伝達され、思考障害や困惑などの症状が起こり統合失調症に陥ることもあります。通常の場合は不要とされる情報はシャットアウトする感覚のフィルターによって必要な感覚しか意識に上らないようになっています。これは、感覚情報が集まる視床という脳部位に感覚入力のフィルター機能があり、無秩序で過剰な信号が大脳皮質に行かないよう感覚入力を制限しているためと考えられています。例えばたくさんの人が雑談しているような雑踏の中でも、自分が興味のある人の会話は自然と聞き取ることができたり、洋服が皮膚と接触している感覚が普段は気にならないように感覚フィルター機能が働いています。
 農業などでからだを毎日酷使している場合、特に五感を使わない流れ作業は、上記の感覚フィルター機能により、様々な知覚情報を使わないものとして制限し、からだが動くことや温度調節と働くのに必要な感覚だけが働き、その他の感覚能力が低下する傾向にあるのではないかと思います。
 僕は毎日自分自身のメンテナンスとして動きや皮膚感覚を通して感覚の聞き分けをおこなっていますが、通常は感覚の聞き分けが比較的小さな動きでも聞き分けられるのに対して、農業の最盛期にからだを酷使している期間には、感覚フィルター機能によるためなのか通常より感覚の聞き分けが鈍いように感じます。
 感覚フィルター機能が強いときはどうしたらよいのでしょうか。明日はその体験を書きたいと思いますが、からだを酷使するときこそ臭覚・味覚・触覚・聴覚・視覚・動覚の感覚が大切で、この感覚を磨くことで快適感覚がからだの機能を保っていることを実感しました。
 からだの感覚に感謝です。ありがとうございました。


佐助


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11月20、21日千駄ヶ谷津田ホールにて2010年秋季東京操体フォーラムが開催されます。
2010年8月、社団法人日本操体指導者協会を設立しました。