東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

からだ(6日目)

昨日の続き
六番目のからだはコスモス(宇宙)体である。ここまでくると、もはや生命でさえない。五番目のスピリチュアル体を過ぎると、「我」が落ちる、そのときにはどんな自我もない。我々は全体とひとつになる。そうなってくると今度は、出たり入ったりするのは我々の何かではない。なぜなら、自我はないからである。そして、一切が宇宙的になる。宇宙的になるがゆえに、その両極性は「創造」と「破壊」というかたちをとる。その大気圏は創造力と破壊力だ。
コスモス体は創造性と破壊性、創造力と破壊力というこの広大な大気圏の中にある。瞬間ごとに、創造が起こり、瞬間ごとにあらゆるものが崩壊してゆく。この宇宙にひとつの星が生まれつつある、それは我々の誕生なのだ。今度はその星が消滅してゆく、それは我々の消滅だ。天地創造はひとつの星が誕生すること、その星は混沌から生じる、それはあらゆるものが存在の中へ入ってくる。そして、あらゆるものが消え去る、あらゆるものが死滅する。星が死に、存在が非存在の中へ移ってゆく。コスモス体は、自我中心的ではない、宇宙的になってくる。コスモス体においては、創造に関するすべてが、天地創造のすべてがわかるようになる。
天地創造」というのはコスモス体に関することを言っている。コスモス体のなかにある人、コスモス体にまで達した人は、死んでゆくあらゆるものを自分自身の死として見る。ジャイナ教の開祖、マハーヴィーラのような人は蟻一匹殺すことができない。非暴力という戒律があるからではなく、マハーヴィーラ自身の死と受け止めているからだ。死ぬものすべてが彼の死なのである。我々が創造と破壊、たえず生じるものと、たえず滅びるものを自覚するとき、その自覚はコスモス体のものである。
ひとつのものが滅びるときはいつでも、ほかのものが生じている。太陽が死滅すると、もう一つの太陽がほかのどこかで誕生しつつある。この地球が死滅すると、もうひとつの地球が生じるであろう。しかし、我々はコスモス体においてさえ執着するようになる「人類は死滅してはならない!」と。が、生まれたものは、すべて死ななければならない、人類も死ななければならない。核兵器は人類を滅ぼすためにつくられた。我々が核兵器をつくるが早いか、ただちに別の惑星へ行くという憧れをつくりだす。核兵器がつくられたということは、地球が間もなく死滅するということにつながる。この地球が死滅する前に、生命はどこかほかのところで進化しはじめることだろう。
コスモス体は宇宙的な創造と破壊の感覚である。創造と破壊は入息と出息。コスモス体に達すると、我々はその両極性に目覚める。創造と破壊に目覚めたら、この二つの位相を自覚したら、その両極性を超えた第三の位格である「保持」というものを知るに至る。これこそが我々の実体なのである。
ユダヤの旧約的キリスト教バビロニア神話、シリア神話の大洪水、あるいは世界終局を語るヒンドゥー神話のプレラーヤなどは宇宙的なひと出息、呼吸する宇宙の力だ。森羅万象が存在のなかに入り、また非在のなかへと還ってゆくのである。こういった大洪水やノストラダムスの予言にあるような世の終末について話すとき、それらはみなコスモス体について語っている。このように神話や昔話などの比喩がコスモス体の言語であり、本質なのである。
臨床心理学には「現象学」と「実存主義」をとり入れたゲシュタルト療法なるものが存在する。ゲシュタルト心理学は、ジャン・ポール・サルトル実存主義を根本に据えており、「我ゆえに我あり」とは、このサルトルの主張であるが、これは、「実存」が「本質」に優先するというものである。しかし、臨床においては本質が実存に優先していないと治療は成立しない。なぜなら本質的に病人というものは存在せず、ただ、病気という現象が実存しうるだけだ。本質的に健康があるからこそ、病気から戻ることができるのである。

操体の臨床には「言葉による誘導」というのがある。はじめて操体の臨床に接した方は、この言葉の誘導に悩まされる。「からだの中心を使って表現して」、「全身で表現して」、「首で表現して」、はては「へそで表現して」と、次々に言葉がやってくる。さあ、どうしたらいい? いったい何をしろと言っているのか? さらには「からだにききわけて」と、くる。からだにどうやってききわけろといっているのか? 「頭」で考えるとますますわからなくなってくる。しかし、からだはちゃんとわかっているのだ。感覚というのはこの「頭」からさえ降りてしまえば、あとはからだがうまくやってくれる。言葉の誘導はからだに対して「操体言語」を用いて話しかけているのである。「頭」と話しているのではない。操体の言語で話しかけ、そしてききわけさせている。操体での言葉の誘導はコスモス体というからだの本質にききわけさせているということだ。
明日につづく


日下和夫



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11月20、21日千駄ヶ谷津田ホールにて2010年秋季東京操体フォーラムが開催されます。
2010年8月、社団法人日本操体指導者協会を設立しました。