東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

自然の法則にみる「快」と「楽」(最終日)

「環境」の快と楽について
我々の暮らしの中で一番くつろぐことができるのは、「住居」であるということに対して、誰しも依存のないところだ。そこで特に「住環境」というものについて考えてみたい。
人間の健康状態の概念というのは一言でいうと、「頭寒足熱」の状態に尽きるといってもいい。我々は常時、空気のお風呂に入っているといってもいいのではないだろうか。冷暖房を効かした住環境について考察すれば、上の方が暖かくて下の方は冷たいという、健康概念とは逆の「頭熱足寒」の状態に陥っているのがわかる。このような環境が健康に良くないのは言うまでもない。健康的な部屋の空気の流れというのは、水平方向の通風と、下から上へ還流する換気が必要なのである。
これについては、操体法の創始者、橋本敬三医師のご子息である建築家の橋本承平技士が勧められているのは、「掃き出し窓」や「欄間」をあけるということだ。どういうことかというと、掃き出し窓や欄間をあけると、下の方へ入ってきた冷たい空気が部屋の中で温まって上から出て行く。空気の流れは、下から上へグルグルとまわる換気になるので、「頭熱足寒」の状態も解消されることになる。もし、機会があれば部屋のリフォームのときなどに施工されたら良い。このような住宅構造であれば、夏に冷房をしないで、掃き出し窓を全部開けていたとしても、プライバシーは十分に守れるのである。
また、我が国においては、湿気の害に注意すべきことがある。田んぼや湿地の埋め立て地において、数年間の養生期間も設けずに、埋め立て後、すぐに住宅を建築するケースが多く見られる。このような家屋は地中の湿気がどんどん上がってくることになり、その湿気が蒸発するときに蒸発熱を奪うので、当然、足もとの方から冷えてくる。これでは、やはり「頭熱足寒」の状態になってしまう。理想的なことを言うと、日本の風土では木造土壁の家屋が一番合っている。木造土壁の建物は、木も土も湿気が多いときには、その湿気を吸い取り、乾いたときには逆に湿気を吐き出してくれるので、最も理想的な家屋である。こういった和風建築では、畳にしても断熱効果があり、床下の冷気を防ぐ役目もしているので、足もとの冷たさは、洋式のフローリングやPタイルと比較すると雲泥の差がある。ただし、最近出まわっているスタイロフォームのようなプラスチック製で形だけのイミテーション畳などは論外である。
一方、文化生活を快適に送るための住居設備がいろいろと作り出されてきた現代でもある。人間の生活における理想の住環境として、温度、湿度を完璧にコントロールすることも可能になった。しかし、これらが本当の意味で快といえるのだろうか。いや違う、これらは楽に過ごすことの出来る快適設備にすぎない。これでは自然を感じることが出来ない。自然の風を、自然の光を、そして自然の匂いを嗅ぐことができて、はじめて快を感じることが出来るものである。快というのは自然環境の一部であるということを知っておく必要がある。快適な設備の楽だけでは、快感覚を味わうことが出来ないのだ。
最後に、我々の住居の何が健康に害を及ぼしているのかを十分に理解して、「頭寒足熱」の状態を保てる方法を創意工夫することが必要だ。特に鉄筋コンクリート造の場合、風通しが悪く、常にジメジメしやすいので換気には十分に心がけるべきである。

一週間にわたって、「息」「食」「動」「皮膚」「想」「環境」と、自然の法則を思いつくままに書いてみたのであるが、すべてを実行しようと思っても、社会生活をしている中では、なかなか思うようには行かないものだ。何も神経質になることはなく、思い出したときに出来そうなものを実行すればいいと思う。からだの使い方・動かし方にも留意して、心はいつも明るく、積極的、肯定的なことに目を向けて生きていきたいものである。



2011年秋季東京操体フォーラムは11月6日(日)、東京千駄ヶ谷津田ホールにて開催予定です。