東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

『ひやり・はっとより、はっとしてグーを』

そういえば最近自転車で通勤する方が増えましたね。自転車で通勤する方達の事をツーキニストと呼ぶそうです。ここ最近の健康ブームやエコブームと街のお洒落さんの支持を得てこのツーキニストさんが異常発生している模様です。私の住む福岡の町も例に漏れずツーキニストさんが急増しており、何を隠そうわたくし秋穂もツーキニストのひとりです。


自転車で通勤していて驚かされる事があります。自転車のマナーの悪さです。歩道を走るだけならまだしも、携帯電話やスマートホンをいじりながら走ってみたり、赤信号で車が走っている前を平気で横切ったり、暴走族が信号で止まっているこのご時世に本当に乱暴な運転をしている方が多いのです。自転車に運転免許がないからルーズになってしなっているのかもしれませんが、自転車と云えどもやはり車両です。万が一事故を起こしてしまった場合には、懲役も科せられますし、罰金だってあるのです。しかし懲役や罰金があるから交通ルールを守りなさいというのではなく。ルールやマナーは私達が快適に過ごす為のマニュアルだと思って自分だけではなく、周囲のみんなが快適に通行出来る様にする為にも安全運転をする方がハッピーなことではないでしょうか。


そういえば三浦理事長と一緒に街を歩いていると、信号無視をしている自転車の前に立ちはだかり注意している姿を良く見かけます。始めは何故理事長自身の身を危険に曝してまで自転車を注意しているのかと疑問に思いましたが、最近ポンっと腑に落ちた事があります。先生は私達弟子に操体の臨床は治療だけ上手くやっていれば良い訳ではない、生き方の姿勢が問われて来るんだよと度々指導してくださる。いくら治療の技術や知識ばかりを磨いたところで、実際に治療する人間が勝手気ままに不摂生しているようではその姿勢というものは臨床態度に少なからず影響してくる。私も恥ずかしながら鉛筆の持ち方をこの夏に指摘され現在修正真っ最中です。なにもこれは私達臨床家にだけ言える事ではありません。この生き方の姿勢というものはその人のからだの姿勢にも影響して来ますし、その人のイノチの在り方にも影響して来るのです。


操体を学んでいる方にとってはもう飽きる程聞かれた話だとは思いますが、交通ルールと同じ様に私達のからだにもからだの動かし方と使い方のルールがあります。これが身体運動の法則です。そして私達は絶対に人に変わっては貰えない生命エネルギーのインプットである呼吸と食事、そして生命エネルギーのアウトプットである運動と精神活動のバランスがそれぞれ絶妙に関与し合って健康なからだを維持しています。これら四つの生命活動とそれを取り巻く生活環境も含めて最小限責任生活といいます。この極シンプルなからだの基本となる原理原則を守っていれば健康でハッピーに生きられる様になっているのですが、このうちのどれかを不摂生してバランスを崩してしまうとからだの姿勢は崩れ、不定愁訴と呼ばれる異常感覚が起こり、それでも放って置くとからだは壊れてとんでもない事になります。


しかしこの交通ルールもからだのルールも、それに違反したからといってすぐに問題が起こる訳ではないのです。勿論その程度の問題によっては即何らかのトラブルが起こる事もあるかもしれませんが、なにも弁護士を立てて法廷で争わなくてもなくても、きちんと執行猶予が付いて来てくれるのです。自転車でちょっと信号無視したからと言ってすぐに事故に遭う事はないとは思います。勿論運転者も車が通っていないのを見計らって信号無視をするのですから、いきなり事故に遭う事は少ないと思いますし、たまの飲み会でちょっと位食べ過ぎや飲み過ぎをしたって、すぐに病気になる事はあまりないと思います。しかしこれらのルール違反は必ずペナルティーを持っています。人は良い事も悪い事も慣れます。最初は「今日は車も通っていないし、遅刻しそうだから信号無視しちゃうか。」と罪悪感を感じながら信号無視をしていた人も、次の日も、また次の日もと繰り返しているたびに、感覚が麻痺して赤信号も車が走っていなければ青信号にみえて来ますし、「今日は会社の飲み会だから飲み過ぎていいよね〜。」と油断していた人も、次の日は女子会、その次の日はコンパと続けているうちに、なんだか飲まないとやってられなくなってしまうのです。そうですイヤよ、イヤよも、いつの間にか好きになってしまうのです。


慣れは注意力を低下させ『ひやり・はっと』の原因になってしまいまいます。労災事故を専門に解析した『ハインリッヒの法則』では、1件の重大事故の影には29件の軽微な事故と800件のひやり・はっとがあるとの統計が出ています。これを飲み会に当てはめてみると800回の飲み会は29回の二日酔いと1回の胃潰瘍の可能性を秘めているといえますし、信号無視に当てはめると800回の信号無視は29回の軽傷の接触事故と1回の死亡事故に繋がる可能性があるということになるではないですか。もう信号無視をしている場合ではありませんよ。病気になったと云ってもからだが悪いのではありません。病気になる様に無理をさせてしまった使い方が悪いのです。罪を憎んでからだ憎まずです。この事をよ〜く知ってあるから三浦理事長は自らの危険を顧みずに自転車を止めに行くのでしょう。三浦理事長はいっていました。「目の前でからだを張って止めようとしても誰も止りゃ〜しない。」それでもまた今日も三浦理事長は世界の健康を守るため、信号無視の自転車を注意し続けている事でしょう。こんな師匠を持ったから、私は絶対信号無視はいたしません。(断言)


そういえば三浦理事長の在籍時代、赤門鍼灸柔整学校に講師として通ってくる橋本先生も自転車ツーキニストだったそうです。今も昔もお洒落な人は自転車に乗っていたんですね。