東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

『満ち足りた物足りなさ』

昨日は刺激の強い食べ物の過剰摂取が問題になっているようですよと云う内容で書かせていただきましたが、この刺激の強いものというのは何も食べ物に限ったものではありません。私達のからだに外から入ってくる刺激は全てストレッサーになりうるのですから、運動や労働により与えられる身体面へのストレッサーや、情報やコミュニケーションによる心理面へのストレッサー、騒音や環境破壊等から来る環境面へのストレッサーなど、私達の生活を取り巻くありとあらゆるものが私達のからだに取ってストレッサーとなりうる可能性があるということです。これは勿論、ネガティブなストレッサーばかりではなく、嬉しい・楽しいなどのボジティブな内容の刺激であっても過剰になってしまえば、からだに取って有害な刺激になるとも言えます。橋本先生の中に赤ん坊がお乳を欲しがるからと言ってすぐに母親が与えていると軟弱な子供に育ってしまうから、お乳を欲しがって泣き始めても、一度泣きつかれてウトウトと眠り始め、再び目を覚ましより一層強くなき始めるまでお乳を与えるべきではないという文章が書いてありました。その様に一度飢餓状態を覚えたこの方がお乳の飲む力が強くなるし忍耐強い子供が育つのだということです。

しかしこれは必ずしも子供だけに限るものではないのではないでしょうか。好きな時に好きなだけおっぱいを飲んで育った子供が社会に出て経済的に自立してみると今度はお金を払えばそれなりに不自由無く満ち足りた生活を送る事が出来る様になります。この不自由のない満ち足りた生活の危険性に対してソニー創業者の井深大氏が著書『0歳からの母親大作戦』の中でこのように書いておられました。

幼児教育に限らず、私は現在の教育問題の1つは与え過ぎにあると思っています。教育という言葉は、教えるものが教えられるものに与えるというイメージを強く持っていますが、教育には与えないと云うやり方もあるのです。教育の大きな牽引力は、満ち足りたりたいところにあり、そこから集中力や努力もうまれて来るのです。人間は満ち足りないからこそ。それを得ようと努力し、大きな仕事も成し遂げる事が出来るといえましょう。

私は戦後生まれの両親から育った第2次ベビーブームの真っ只中に産まれました。産まれた頃には日本も経済的に成長し物質的に恵まれた中で産まれて来た世代といっても良いでしょう。私達と比べてみると戦前生まれの橋本先生や、戦後のモノがない時代に産まれた三浦理事長の年代の方達は本当の意味で飢餓状態を実体験されてあるのではないでしょうか。橋本先生は若い頃から医学会に向けて、ボディーの歪みへの理解と未病医学の重要性を提唱し続けても70歳を過ぎる当たりまでは全くと言って相手にされなかったそうですし、三浦理事長も橋本先生が残した快適感覚をききわける診断と操法を周囲の冷ややかな眼差しを受けながら構築して来ました。この周囲からの軋轢を克服し1つの物事を成して行くと云うバイタリティーは確かにその満ち足りなさを自らの努力で克服した事によって得られたエネルギーなのかも知れません。

『足るを知る』事はとても大切な事だとは思いますが、足る知った上でその足りないものを求めようという探究心も私達求学者が持たなければならない必須条件なのかもしれません。

2012年秋季東京操体フォーラムは11月18日(日)津田ホールにて開催