東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

『運動系の力学と心身の健康』

一週間のブログも本日が最終日となりました。橋本先生の『失われた一文』の意味を探して一週間書いて来ましたが、最終日は精神機能と運動系の関係性についての文章を見て行きたい。そしてこの文章を読み勧めながら橋本先生の『失われた一文』が前出の文章だけではないことにも気がついたので後ほど紹介したい。

この頁では姿勢が健康に関係してくるということを様々な例を挙げながら解説している。この中で特に注目したいのが以下の文である。

運動系の歪みは、軟組織の刺激でも矯正されて、異常感覚や内蔵機能異常の回復にも役立つのであるが、硬組織の矯正運動でも整復され得るのである。だから、医家以外に体育家の場において、健康増進への貢献がなし得るものであることを、声を大にして主張したいのである。民間の治療師は他動的暴力を用いて矯正するものが多いが、自動的無痛な合理運動をもって指導することも可能なのである。それがためには、ぜひとも私の言う「運動系の秘密原則」を理解していただきたいのである。(ちなみにこの文章は『生体の歪みを正す』から引用したものであるが、「からだの設計にミスはない」では「運動系の秘密原則」の部分が「運動系の秘密7原則」と書いてあった。この部分にも後ほど触れて行きたい。)

この中の軟組織というのは、私達のからだを構成する結合組織から骨をのぞいた筋肉(一般的な運動器としての筋肉を指す横紋筋と内蔵や血管を構成する平滑筋)、末梢神経、血管、脂肪のことであり、硬組織とは骨のことである。上記の様に筋骨格系の歪みを矯正することで、からだに生じた異常感覚や内蔵機能の低下から引き起こされる諸症状の改善が期待出来る。これは柔道整復や鍼灸、按摩マッサージ指圧、その他民間療法の治療院が一般的になり認知されている現在においては一般的になって来た考え方であるが、明治維新以降の東洋医学が禁止され西洋医学が一辺倒であった日本の医学界においては、戦後東洋医学が一部解禁なったとはいえこの文章の書かれた昭和35年当時であればかなり異端な考え方であったに違いない。それも西洋医学の医師である橋本先生が、医師に任せっきりにするのではなく、体育家に広く健康増進への関与を訴えていると云うのは、誠に痛快な文章である。私の祖父は戦前より柔道の師範を生業としていて、戦後、柔道整復師としてほねつぎを開業した人なのだが、その祖父が「日本伝統の武道によって 体力、気力(心)を増進し世の進運に寄与しよう」という言葉を残している。もともと武道にはからだ育てという本来の体育の目的が有ったことが読み取れて興味深い。果たして私を含めた今の柔道整復師に体育家としての自覚が有るのかは甚だ疑問では有るが、柔道整復師としてのアイデンティティーを失わないためにも再確認しておきたいものである。そして橋本先生は運動器の歪みの矯正に必ずしもマッサージや指圧、カイロプラクティックなどによる徒手整復の必要性がないことを明言している。操体法は確かに臨床の場で用いられる治療法では有るが、その前提にはからだの動かし方と使い方という身体運動の法則への深い理解が必要であり、操体の臨床を通すことによって不自然なからだの使い方をしていたものが、自然法則に則ったからだの使い方を獲得して行くという為の体育と行っても間違いでは無いように感じられる。そしてそれは必ずしも臨床の場が必要な訳でもなく、健康維持増進を目的とするのであれば(症状疾患を抱える程のからだの歪みを抱えている場合は臨床家の介助が勿論必要になって来るのであるが・・・)橋本先生の残した「運動系の秘密原則」を理解することでも、日常的なからだのケアは可能になってくるということである。ではこの「運動系の秘密原則」とはなんで有ろうか。参照としてあげてある「異常感覚と運動系の歪み」を見てみよう。

『運動系の秘密な原則』

運動系の秘密でない原則

1、運動作用をなす
2、全身の支持作用をもつ
3、中枢神経や内蔵などの重要器官の確保作用をもつ

そして、それ以外の秘密な原則

1、運動系は、全系統的に相関連動装置になっている
2、局所だけを診ずに全体を診なければならない
3、運動系の歪みは逆モーション誘導法によって矯正される
4、逆モーション誘導法は自力自動でも可能である
5、運動系はからだの中心である腰に集約される様に使う
6、からだの中心に集約した動きはからだのアンバランスを調整する
7、運動系は重心がかかった方が伸展する
8、運動は必ず呼気もしくは呼気を止めておこなう

以上の運動系の原則を守りながらからだを使うことでからだはより美しくより効率よく使うことが可能となり、パフォーマンスも上がるし、疲労も軽減され、故障も減るのである。福岡ソフトバンクホークスの選手達に是非実践していただきたいものである。というかホークスのトレーナー諸君操体を学びたまえ、そうすればホークスが常勝チームになることに疑いの余地はない。あと勿論アビスパ福岡もJ1への再昇格を目指すのであればトレーニングに操体を取り入れることをお勧めする。是非東京操体フォーラムもしくは一般社団法人操体指導者協会まで連絡をお待ちしている。

ここまで橋本先生の『失われた一文』の謎を求めて、『健康に関する四つの場』を読み直してみた。しかし、残念ながら私には何故有るはずの文章が何故記載されなかったのかを理解することはできなかった。そのかわりに今回改めてこの作業を進めて行く内に、以前この本を読んだ時には、気にしていなかった文章が改めて浮き上がって来たり、その時には私が持ち合わせていなかった知識を現在理解したことでより文章の解釈の仕方が変化したりと、私自身の学びの中では大変貴重な経験をさせていただけた様に思う。もしかしたら橋本先生は文章の中で今も生き続けていて、回数を重ねて読んで行くごとに、新しい気付きを与えてくれる。今回の私の様な疑問をもち、改めて文章を文章を読ませることを見越して、あえて文章の形態を変えたのかもしれないなどと楽しい想像も膨らんだ一週間であった。

一週間の間お付き合いいただき誠に感謝いたしております。また次回のブログの出番までに、操体の学びを深めて行ける様に精進して行きたいと思います。では皆様アディオス!


偶然自転車で走っている時に見かけた馬で秋穂が乗っている訳ではありません。念のため・・・

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2012年秋季東京操体フォーラムは11月18日(日)津田ホールにて開催決定