昨日は細菌感染に特定した内容だったので、今日はウイルス感染について述べてみる。
ウイルスはゲノム核酸とタンパク質等から成る20~300nmほどの大きさの粒子である。 宿主の生体細胞内でゲノム核酸を複製し、必要なタンパク質を合成して粒子を再生産する(ウイルスの複製、増殖)。
ヒトがウイルス感染によって病気を起こすまでの段階は次の三つのステップがある
①ウイルスと出会う →
②ウイルスが宿主に侵入して標的組織・臓器に移動する →
③ウイルスが標的組織で増殖して組織を障害する(発病)
感染はヒトがウイルスとの出会いから始まるが、これを感染経路と呼び、以下の四つに分類している
①経口感染(水・食物感染、母乳感染)
②気道感染(飛沫感染、空気感染)
③性行為感染・血液感染(輸血・母子感染)
④動物(蚊・ダニ)媒介感染 、感染動物の咬傷感染
ウイルスとこれらの感染経路の組み合わせが正しい時に限って感染が成立し病気が起こる。
ヒトが生まれて初めてウイルス感染すると自然免疫が稼働し、次いで最終的に獲得免疫系がウイルスを排除する仕組みになっている(一時応答)。 この時に誕生した活性化リンパ球の一部が体内で生存し続ける。 これが免疫学的記憶で、この長期に生存する細胞をメモリー細胞と呼んでいる。 抗体を産生する形質細胞(B細胞)は一般的には数週間で死滅するが、一部は骨髄の中で長寿命な形質細胞として生存し続ける。 そして、同じウイルスが再び侵入してきた場合は、このメモリーリンパ球と長寿命形質細胞が迅速に活動し、効率的にウイルスを排除する(二次応答)。 このしくみを免疫機序という。
近年の日本で深刻な問題となっているウイルスは、ノロウイルスとロタウイルスである。 ほかにもアデノウイルスやアストロウイルス等が原因となっている。 ノロウイルスは特に冬に多く流行し、カキ等の海産物を介して感染する。 ノロウイルスの感染力と発症力は、まな板や床やテーブル等に長期に持続して感染が広がりやすい特徴がある。 世界で発症する腸炎の最大原因でもあり、日本では食中毒の7割がノロウイルスを原因とするものだ。
ノロウイルスでは通常用いる石鹸や消毒薬(アルコール系等)では死滅せず、まな板や床やテーブル等は希釈した次亜塩素酸(ハイター等)を用いて処理する必要がある。 また、血液型がO型だと発症しやすく、B型はかかりにくいという報告が示されている。 これは血液型の抗原によりウイルスの吸着のされやすさに差があるためであり、このことは血液型占いとは何ら関係なく、稀有な例外と言えよう。
ノロウイルスにおいては、ヒトに何度でも感染し、ワクチンも治療薬も存在しない。 処置の対応が非常に難しいウイルスである。 ロタウイルについては、小児に多い腸炎の原因ウイルスで、ノロウイルスよりも重症化しやすいが、免疫ができるので大人はかかりにくい感染症である。 日本では5歳までにほとんどの小児が感染、罹患する病気であるが、経口ワクチンで予防可能である。
現在話題になっている新型コロナウイルスについては、まだよく解っていないことが多く、コメントは差し控えることとしたい。 ただ新型コロナウイルスにおいても共通して言えることは、ウイルスが侵入して感染しても免疫力が強いと感染症にまで至らないが、弱いと、発症してしまう。 うじ虫でも生きている猫にはつかないが、死んだとたんに湧き出してくる。 ヒトでも生きている細胞には発症しないが、死の細胞ではウイルスも活動が活発になるためである。 やはり免疫力を高めるということに尽きるのだろう。