我々の身の回りにあるものはバスルームやキッチンのような水回りの高温多湿の状況下では、真菌の一種であるカビが発生する。 食物にもカビが生えるし、同じく真菌の一種である酵母菌によって発酵するかも知れない。 当然、ヒトのからだも真菌に感染していろんな症状を引き起こすことになる。 このように我々の住むあらゆる環境に真菌が蔓延しており、その真菌から逃れることはできず、否が応でも真菌とともに暮らさざるを得ないことを理解する必要がある。
ヒトのからだがカビ菌や酵母に感染して症状が出ると、真菌感染症が成立する。 真菌感染症は多種多様で、いんきん・たむしや水虫のように皮膚表面に感染する浅在性皮膚真菌症もあれば、クリプトコッカスのように深在性真菌症もある。 感染経路もヒト、動物、空気、土壌、衣服、スリッパ等からヒトへ感染することが知られている。 こういった経路からヒトのからだには真菌が常在菌的に元々感染している可能性もあり、それが長期間症状を呈したり、宿主の免疫不全状態において感染が顕在化する場合もある。
特にカビについては生命力が強くて、湿度と僅かな栄養のみでどこにでも生える。 そのうえ、カビはそこらじゅうに散在している。 ヒトの湿った皮膚はカビにとって絶好の生え場所であり、真菌感染するのは至極当然のことである。 ただヒトはカビが皮膚に付着してもそれが定着する前にシャワーで洗い流したり、免疫力で抵抗するから真菌感染症にまで至らないのだ。 ところが、免疫不全状態に陥ったらカビが増殖して日和見感染症になる可能性もある。
真菌は間違いなく感染症を誘因するものであり、生活空間全体が真菌で汚染されている状況といえる。 そしてこの感染を防ぐワクチンは存在しないので、ウイルスや細菌感染対策とは事情が異なる。 また、寄生虫感染の公衆衛生対策をそのまま利用できるわけでもない。 ではどのような衛生対策が考えられるのであろうか?
まず考えたいのは、屋内で靴を脱ぐ日本人の生活習慣だ。 すなわち、真菌の中でも白癬菌感染の予防である。 屋内では靴を脱いで上がることの良い点としては、靴に付着したバイ菌を含んだ土が屋内に持ち込まれるのを防止できるという長所がある。 しかしその反面、水虫という足白癬の感染拡大を増長させるという大きな短所もある。 たとえば公共の場所でスリッパを共用するというのは確実に白癬菌感染の機会を増やしてしまう。 さらに家庭内では素足で歩く習慣があるが、高温多湿な気候環境の日本では畳や床を介して足白癬の蔓延につながっている可能性もある。
そこで皮膚を清潔に保つ日常の生活習慣を見直したい。 皮膚表面に感染する足白癬の感染を防ぐ最も有効な手段は、皮膚を清潔に保つこと以外ほかにない。 風呂に入ってシャボンで足の皮膚をよく洗い、その日の汚れをその日のうちに洗い流すことである。 足白癬の感染経路は、感染者から直接に、また間接に白癬菌が運ばれることになる。
日本では足白癬の患者数が非常に多いため、スリッパを共有することや銭湯の浴場出入口のマット、それにプールの床を素足で歩くことは自分の足が白癬菌に汚染される確率がとても高い。 こういった菌が付着した状況が多湿環境で長く続くと感染が成立し、白癬症となる可能性が極めて高くなる。
操体臨床家の立場から言うと、患者の足白癬病変部に直接触れた場合には、早めに洗浄することが求められる。 特に操体では足趾の操法という施術を施療するが、私は足趾操法の施療の都度、早めの手洗いを励行している。 また昨今の感染環境における臨床では、サージカル・マスクではなくN95マスクを私は使用しており、これは院内感染防止と同じ考え方をしたものだ。
日常の暮らし方として、毎日足を清潔に保ち、乾燥状態を保つことは、白癬菌が付着しても感染を成立させないために最も有効な手段である。