海から離れた場所で生活していても、海を思い出すことがある。
都内の川沿いに住んでいて、こんな不思議な現象が起こる。
朝、川沿いを歩いていると、何故か「磯の香りのようなもの」が感じられることがあるのだ。昔からたまにこういうことがあって、こどもながらにふしぎを感じていた。
上流で起こっている現象に起因するのか、もしかしたら、川の水の状態が原因なのか。
理由はわからないけれど、このふわりと漂う海の気配のようなもの(少なくともわたしにはそのように感じられる)に遭遇すると、川沿いを歩いていたはずが、瞬間的に意識は海岸にいるような気分になる。
人にとってはこういう現象は不快に感じることもあるかもしれない。
けれど、わたしは妙に得した気持ちになる。
からだにも何かスイッチが入るような気持ちがして、それだけで海の記憶の追体験がはじまっているような気持がする。