腐敗も発酵も微生物の働きである。
腐敗菌の類が繁殖すれば腐敗。
有用発酵菌が繁殖すれば発酵というだけの違いである。
だが、この違いが天地雲泥の差なのである。
ぬかみそ。
これは、米ぬかと塩と水で作る。
これを常に掻き回し、空気を入れ温度管理に注意し、カビなどの有害微生物が優先にならないよう「愛」を込めて育ててやる。
好きな人にはたまらない、まさに風味絶景のぬか漬けができる。
そればかりではなく、野菜には少ないビタミンB類など「ぬかみそ」から野菜に染み込み、栄養補給の最後まで受け持つのだから、発酵とはかくも有り難いのである。
長い間熟成されたもの、ヴィンテージ物となってくるような愛をかけて育んでいるもの。
それは何も「ぬかみそ」やヨーグルトのようなものに限らない。
間に合うようにするのであって、他のものにも十分に応用できる。
例えば、建築の床や柱のように毎日愛情を持って手入れしてやる。
すると腐敗は起こらず、発酵が進んでいく。
明治や大正の頃までに作られた農家の建築などは、ほぼ例外なく、木造の伝統的な軸組工法で作られている。
ワタシの祖母は、床や柱を、「ぬか」袋で磨いたり、出がらしの「茶渋」で磨いたりした。
囲炉裏がある家では、家の中心にある囲炉裏から常に薪の煙が上がって、内側の柱や梁はその煙によって燻蒸され続ける結果、驚くほど柱も梁も長持ちするようになる。
流行の言葉なら「エモい」というか、感覚的に、得も言われぬ味わいすら持ち続ける。
ときには、湿気のある床下の「根太」がシロアリの犯すところがあっても、その部分を張り替え重ね張りしてやれば、家は命を失うことなく木造建築は100年を軽く超えていくこともできるのであるが、しかし、その前に家を建て替える自由も、日本人の性分だろう。
英国在住歴のある患者さんに聞き調べたところ、イギリスの住宅はなんと12世紀に建てられた石像建築などは、その辺にゴロゴロしているらしい。
イギリスの国民は、痛んだ壁を塗り返し、コツコツ手を入れながら丁寧に生かしていく。
それが住宅と言うものの本質なのである。
「からだ」の本質も、生命の本質も同じだ。
本質に繋がる真理は、
発酵するものであって、
決して腐敗するものではない。