東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

熟成する人生⑥

腐敗も発酵も微生物の働きである。

 

腐敗菌の類が繁殖すれば腐敗。

有用発酵菌が繁殖すれば発酵というだけの違いである。

 

だが、この違いが天地雲泥の差なのである。

 

ぬかみそ。

これは、米ぬかと塩と水で作る。

これを常に掻き回し、空気を入れ温度管理に注意し、カビなどの有害微生物が優先にならないよう「愛」を込めて育ててやる。

好きな人にはたまらない、まさに風味絶景のぬか漬けができる。

 

そればかりではなく、野菜には少ないビタミンB類など「ぬかみそ」から野菜に染み込み、栄養補給の最後まで受け持つのだから、発酵とはかくも有り難いのである。

 

長い間熟成されたもの、ヴィンテージ物となってくるような愛をかけて育んでいるもの。

 

それは何も「ぬかみそ」やヨーグルトのようなものに限らない。

間に合うようにするのであって、他のものにも十分に応用できる。

 

例えば、建築の床や柱のように毎日愛情を持って手入れしてやる。

すると腐敗は起こらず、発酵が進んでいく。

 

明治や大正の頃までに作られた農家の建築などは、ほぼ例外なく、木造の伝統的な軸組工法で作られている。

 

ワタシの祖母は、床や柱を、「ぬか」袋で磨いたり、出がらしの「茶渋」で磨いたりした。

 

囲炉裏がある家では、家の中心にある囲炉裏から常に薪の煙が上がって、内側の柱や梁はその煙によって燻蒸され続ける結果、驚くほど柱も梁も長持ちするようになる。

 

流行の言葉なら「エモい」というか、感覚的に、得も言われぬ味わいすら持ち続ける。

 

ときには、湿気のある床下の「根太」がシロアリの犯すところがあっても、その部分を張り替え重ね張りしてやれば、家は命を失うことなく木造建築は100年を軽く超えていくこともできるのであるが、しかし、その前に家を建て替える自由も、日本人の性分だろう。

 

英国在住歴のある患者さんに聞き調べたところ、イギリスの住宅はなんと12世紀に建てられた石像建築などは、その辺にゴロゴロしているらしい。

イギリスの国民は、痛んだ壁を塗り返し、コツコツ手を入れながら丁寧に生かしていく。

 

それが住宅と言うものの本質なのである。

「からだ」の本質も、生命の本質も同じだ。

 

本質に繋がる真理は、

発酵するものであって、

決して腐敗するものではない。