東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

原初からの解放(最終日)

前日のつづき
血も凍るようなバース・トラウマからの無意識の叫びに導かれて、病める心とからだに巣食う共通の苦痛がある。それは出生時に拒否された原初の記憶である。出生時のあの出来事が、一挙一動が、赤ん坊の心を傷つけ歪め、そしてその傷は一生つきまとって身心を苦しめる。人生の始まりにおいてはじめて受けた傷であり、そのうえに後日、神経症が芽生えてくる。そうした苦痛が、神経症の形態とは関係なく、すべての神経症の人間の生活のあらゆる瞬間にまとわりついている。こうした苦痛は意識されないことが多いのは、それらがからだ全体にひろがっているためである。それらはさまざまな器官、筋肉、それに血液とリンパ組織に影響を及ぼし、人間は歪んだ行動をとるようになる。なぜ、他人の評判が気になるのか、なぜ、わけもなくいらいらするのか、なぜ、今の自分は本当の自分ではないと思ったりするのか。それらは心とからだの不自然な緊張が慢性的になっているのである。正常な緊張は、我々が生きていくうえで必要である。緊張というのは自分の重みであり、そこに緊張がなければ無重力状態になってしまう。出生時に否定された感情と要求が及ぼす圧力が不自然な緊張をつくりだすことになる。この緊張度が高いほど、気分が悪く、神経症にかかっている者が見せる行動は、少しでも気分をよくしたいと望んで行っている。そしてこの不自然な緊張を伴わない神経症はあり得ない。神経症の一部を形成している緊張は、必要を満たしたり、破滅的な感情から人間を守ったりする方向に肉体を動員する、いわば生存のためのメカニズムである。いずれの場合にも、緊張はその人間の継続性と統合性を保ち続けようとする。
この神経症は呼吸にもっともよく現れてくる。神経症的な呼吸は苦痛を押しとどめることを目的としており、リバーシングによる深くて速い呼吸を強要すると、抑圧のふたをあける助けになる場合がよくある。その結果、爆発的な力が流出する。高血圧、高体温、手の震えといったさまざまな形をとっていたものが一気に噴出され、その途中で記憶の阻止が解除されることになる。深くて速い呼吸は肉体内部の並はずれた苦痛を解き放つのにとても役立っている。神経症患者は呼吸を制止するという特徴があるが、呼吸の制止には感情の制止が伴う。というのも呼吸の制止は肉体的な抑制のメカニズムであり感情の抑圧である。これが神経症の基本的なメカニズムなのである。この神経症に認められる呼吸の障害は腹部の緊張によってもたらされ、この状態が浅い息づかいをもたらし、またひどく驚いたときに、腹部の収縮によって息を殺すのである。
リバーシングは生命エネルギーの強い流れを促し、長年抱いてきた感情的な収縮のパターンを解放へと導く。時には、このエネルギーの動きが本人をかなり混乱させるようなことも起こる。これは新しいエネルギー的現実が急激に表れたために、からだ、心、感情、魂にさまざまな影響が及ぶ可能性がある。最悪の場合は強迫神経症、神経衰弱、うつ病などの重度の発作を伴う精神病を思わせるような現象が出てくるかも知れない。生命エネルギーの観点から見ると、それらはヒーリングが進行中であることを示している。ただ解決がプロセスの途中であり、終わっていないということを理解しなければならない。危機的状況に瀕していると思われるときは、何よりもまず呼吸を意識し、鼻からゆっくりとした呼吸をするだけで、気持ちが落ち着いてくる。数分も続ければ、心身ともにリラックスしてくるだろう。補助的には操体でおこなう渦状波などのボディワークも肉体的・感情的にリラックスさせる効果をもつものなら、非常に助けになり役に立つ。たとえば、被験者の胸の下のほうを手のひらでおして呼吸の循環を深めると、感情が解放され不自然な緊張が弱められ、それだけ気分がよくなってくる。このような危機的状況にある場合、西洋医学的治療は危険だ。西洋医学は、生命エネルギーやそのエネルギーの影響について無知なため、危機的状態での理解ができない。この危機的状態を病気であるとし、化学の投薬や入院での電気ショックを処方することになる。だが、そんな治療方法で危機的状態が改善されることは決してない。それまで生命エネルギーの進化を遂げつつあった人々が精神科を受診することによって病棟を埋めてしまうことになる。これは悲劇としか言いようがない。危機的緊急状態はヒーリングが進行中である。そんなときこそ、あくまでも呼吸を続け、出てくる感覚を見つめ、操体法の渦状波のような手段を使ってからだをリラックスさせ、このプロセスを絶対的に信頼することによって、完全な解決を促すべきなのである。

最後に、リバーシングを行う際には、心臓疾患やてんかん、妊娠後期、内出血のある人などは注意と配慮が必要になる。無理をせずに忍耐強く時間をかけ、からだによくききわけて取り組む限り、それらの状況も深い呼吸の恩恵を被ることができる。
一週間にわたってリバーシングという呼吸法について述べてみた。

明日から京都の小松さんがリレーブログに登場されます。よろしくおねがいします。