東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

『一人所長』が多いわけ。

操体の先生方の多くは、完全予約制で一人でやっておられるケースが多い。何故かと言えば『感覚のききわけ(感覚分析)』をするので、普通の治療院のように、ベッドを何床か並べ、カーテンで仕切ってそれぞれの担当者が施術する、とういう業態では施術ができないのである。私が完全予約制をとっているのは、私自身にも『心構え』が必要だからなのと、お待たせしたくないからなのと、お互いの時間を有効に使いたいからでもある。

基本は静かな部屋で、一対一で行う。または接骨院整骨院だったら別枠で診ているケースが多い。

一般の治療院のようなところでやるのだったら、どうしても『楽な方に動かして瞬間急速脱力』という第1分析をせざるを得ないのではないだろうか。
十年近く前になるが、受講生の中にこれからすぐ整体院を開業するから、操体をすぐ教えて欲しいという人がいた。どうするのかと思ったら『自分が私から習った操体を、すぐアルバイトに教えて整体院で使う』という計画だった。流石にそれではお客様に失礼だろうと、そのアルバイトの子達にも基礎の基礎の基礎を一日教えたが、勿論それっきりでブラッシュアップも何もしていない。結局その受講生は整体サロンの仕事が忙しくて講習は最後まで終わらなかったのだが、HPには「整体と操体」と書いてある。アルバイトにも自分が教えた操体をやらせているのだろう。こういう中途半端に覚えたものを自分のところのアルバイトに安易に教え、それをサロンでやらせているというのは如何なものかと思う。結局やっているのは第1分析で、あとは本を見たりして試行錯誤してやっているケースが多いのだ。ここで『何かおかしい』と思って操体の専門家の治療を受けてみるとか、基礎講習を受けてみるとかのアクションを起こせる人はまだいいのだが(そういう方は是非東京操体フォーラムにお越し下さい)、そうでない場合は『操体ってよくわかんない』と、投げ出すケースが多いのである。

なお、もっとヒミツを話すと、『はじめての相手や慣れない相手に瞬間急速脱力させる』のは、難易度が高いことなのである。難易度が高いというのは、慣れない相手というのは、操者の思った通りには動いてくれないからである。橋本敬三先生の古いフィルムを見ると、橋本先生でさえ、操体が初めての被験者に瞬間脱力させるのに苦労されている様子が写っている。
なので、中途半端に習ったことを、アルバイトに教えてそれを整体サロンでやらせる、というのは非常にナンセンスだということだ。
結果は出ないし、お客様には満足していただけないし、アルバイト料は払わなければならない(笑)それだったら、自分がしっかり勉強して自分がやればいいのだ。



復習になるが、第1から第3分析の特徴をあげる。
第1分析:対なる動きを比較対照してする分析。楽な動き、痛くない動きの方に動かして、瞬間急速脱力に導く(橋本敬三先生の時代の分析法)
第2分析:一つ一つの動きに快適感覚をききわける分析。ききわけられたらそのきもちよさを味わう。瞬間脱力には導かない
第3分析:皮膚に接触することによる分析
第4分析以降

第1分析は、操法の選択も、たわめの間も、脱力のタイミングも、操法の回数も操者が決める。上手下手は抜きにして、患者を早くまわす場合に、『操者にとっては』楽だが手、『患者のからだ』にとってはいささか不親切と言える。ここで上手下手と書いたのは、慣れないクライアントに瞬間急速脱力させるのは、経験を積んだ操体指導者でも手こずることがあるからだ。接骨院や治療院で数台のベッドを並べて、何人か同時に「操体をやっている」と言った場合、殆どは第1分析を行っている。というか、第1分析しかできないだろう。また、第1分析では、「楽な方に動いて、動きをたわめて、脱力」という過程が『操法』であるが、第2分析では『快適感覚を味わい、脱力の方法はからだに委ねる』過程が『操法』となる。つまり『動き主体』の動診・操法から『感覚主体』になってくるのである。

『感覚主体』の第2分析以降になると、やはりある程度「場所」が必要になってくる。クライアント自身にリラックスしていただき、感覚のききわけという世界に入っていただくには、セッティングが重要なのだ。

しかし、環境がベストでなくとも、「快」が勝る場合もある。先日の話だが、私が土日の午前施術をしている三軒茶屋のターミナルビルの隣は現在マンションの工事中だった。日曜は工事は休みだが、土曜は終日工事をしている。その工事の音が結構うるさい。機械音のみならず、現場監督の声や、作業員の声も相当響く。こんな環境の中、クライアントには本当に申し訳ないと思う。しかし、クライアントはその騒音の中で深い眠りに落ちてしまうのだ。起きた後『ゆっくりお休みだったようですが、工事の音は気になりませんでしたか?』と、聞いてみると、全然気にならないとのことだった。この方が工事の騒音の中で深い眠りについたのは一度や二度ではない。これは、工事の騒音もシャットアウトしてしまうような『快』を味わっているからである。

おまけ。操体法東京研究会講習から、「膝の傾倒」。よく『膝倒し』と言って、膝を左右に倒す動診を行うが(第1分析)これは比較対照の動診ではなく、「この動きに快適感覚がききわけられますか?」という動診を行っている。快適感覚のききわけを促すには、ゆっくり動きをとらせる他、操者の巧みな介助・補助が必要になってくる。瞬間急速脱力だけが操体だと思ったら大間違いだ。



畠山裕美