初めに恒さんから診ることになりました。
「頭はどっちにして寝たほうがイイ感じかなー?」と私。
「どっちでもいいですけど」恒さんが少し考えて言いました。
「寝てみないとわかんないから、寝てみてどっちが寝やすいかを感じ分けてみてください」
私は三浦先生から教わった頭の方向を感じ分ける方法を使ってみました。
「なんかこっちのほうが落ち着く感じですねー」
「ねっ、結構違うもんでしょう、横でもうつ伏せでもいいんですよ、一番楽な体勢で寝ていいんです」
あれこれ寝てみて、恒さんは北枕で仰向けがいいということになりました。
「どれどれーちょっと調べてみますねー」
膝裏を調べてみると、右が凝って痛そうでした。
「痛いですねー」顔をしかめて恒さんがいいました。
私はそのコリを軽く押したまま、「少し肩を挙げてー、今度はさげてー」と動いてみてもらいました。
この動き(側屈)ではコリは消えませんでした。
「今度は首を軽く右と左ねじってみてください」
右にねじると膝裏のコリが消えることがわかりました。
「右を向くとこれ痛くなくなるでしょう」
「あれっ、はい!」
「ええー!」横で見ていた宏ちゃんが驚きました。
恒さんも不思議そうにしているので、
「ではもう一度左にねじってみてくださいー」
「ほら左を向くとこれ痛くなるでしょう」私は膝裏のコリを押さえて笑いました。
「ほんとなのー?!おもしろいー!」と宏ちゃん。
「首のねじりバランスだねーこれは」恒さんの頭のほうに移動しながら私が言いました。
「首をちょっと調べてみますねー」私はくりくりと触診してみました。左の後ろに筋状のコリがあって、押さえると痛い表情をしてぴくっと頭を動かす恒さん。
「さっきのように、少し右にねじってー、そこでアゴをあげてーちょっとこっちに倒してー」
私は右にねじった位置からアゴを上げる後屈の動きに、右屈を合成させるように頭をゆっくりと動かしました。
恒さんも自分で動いているのか動かされているのかわからないような感覚の動きだったと思います。
「気持ちはいいですか?」
「あぃ〜」
「しっかり味わってください。からだ全体で動きたいように動いていいんですよー、気持ちよさがなくなってきたら抜きたいように力を抜いてくださいー」私は左手でコリがなくなるのを確認しつつ右手で後頭部を支え、恒さんの全身をぼーっと眺めて言いました。
20秒くらいして、じわーっと静かに脱力しました。
「はい、ひと息いれてー、余韻も十分に味わってー」
なんとなく心地よさそうな恒さん。
宏ちゃんはすぐそばでワクワク顔で見ています。
「もう一度動いてみたい感じはありますか?」
「はい」と恒さん。
「気持ちよくないようでしたら動かなくてもいいですからね」
「はい」
「右むいてーアゴを上げながらー右にちょっと倒すー」
「そうそう、どうですか、イイ感じはありますか?」
「あぃ〜」
「腰もー足もー全体で動いてー、力を抜きたくなったら自由に脱力してー」
15秒程して、じわわーっと力を抜きました。
「ハイひと息いれてー、ゆっくりと余韻の心地よさも味わってー」
足腰を少しモゾモゾ動かして微調整する恒さん。
「動かしたい所があったらモゾモゾ動かしていいですよー」
これで首のコリがふにゃふにゃになりました。
「コリがなくなりましたねー」私は首をクリクリ押して言い
ました。
「膝のウラのコリも消えたんじゃないかなー」私は足の方へ移動しました。
宏ちゃんは興味津々、少女のような目で見ています。
「首にさわってみてくださいよ」私は宏ちゃんにそう言いました。
宏ちゃんはニコニコぴょんぴょん首を触って、
「あらー、やわらかいですー!、なんでー」とびっくりです。
「ほーらこっちもくにゃくにゃですねー」
私は膝裏をくりくり押さえて言いました。
「ええーーっ!、ほんとなのー!、膝も痛くないのー!」
宏ちゃんは大騒ぎです。
田舎の娘さんが、ちりめん問屋の御隠居さんが水戸のご老公様だったと気づいたときのような、そんなびっくり顔です。(ちょっと大げさ)
ここでは三軸操体の説明はしませんでした。せっかくびっくりしている心地よさをジャマしたくなかったから
です。
こんな宏ちゃんの素朴な気持ちが、後で自分の心身に大きな影響を与えることになります。(すでに与えているかも)
つづく。
今 昭宏