餅はやっぱり餅屋で買う必要性がある。
そもそもこの諺は餅は餅屋で買うのが一番良いと云う事で専門性の重要性を説いているものだ。いくら素人が器用に餅をついてみても結局餅屋が付くような餅にはならないはずである。しかし現実を見てみるとどうであろう。お正月準備として餅屋で餅を買った事があるのだろうか。そもそも餅屋というお店を見た事を或る人がどの位いるのだろう。福岡の近郊に元々お豆屋さんだった為に屋号が『ハトマメ屋』というシュークリームが有名なお菓子屋さんがある。もしかしたら元々餅屋だったところが、洋菓子屋さんになって今では餅を売っていなかったり、餅だけでは経営が困窮しコンビニエンスストアに事業転換している餅屋もあるに違いない。
先日のブログにも書いた通り、私の家は祖父の代からの家業として整骨院を営んでいる。そもそも整骨院を開業する柔道整復師とはどのような資格なのかを簡単にまとめておきたい。柔道整復師とは厚生労働省もしくは文部科学省が指定した養成施設において3年以上の専門的な学習を修めた上で、国家試験を合格して厚生労働大臣が与える柔道整復師免許を受けた者であり、その業務範囲は骨折・脱臼の応急処置と、打撲・捻挫・挫傷の施術となっている。(骨折・脱臼への治療は医師の診断と同意が必要になっている。)いわばこの様な柔道整復術を施す為の施設が整骨院である。
確かに私の祖父の時代、そして父がまだ開業してしばらくの間は、このような正統派整骨院が当たり前のように活躍出来ていた。餅屋が餅を売る事で生計がたっていたのである。ところが私が資格を取った平成8年ころにはすでに餅屋が餅を売るだけでは少々生きづらくなってしまっていたのである。その原因としては整形外科医の増加、労働環境の変化、整骨院数の増加、柔道整復師の能力低下など様々な要因が考えられる。最近では餅屋が餅を売るだけでは全くお話しにならず、団子やまんじゅうはもちろんの事、ケーキやクッキー、果てはキャットフードまで取り扱わなければならなかったり、変わり種では餅屋だけでは食べて行けないから居酒屋や運転代行業を営んでいますと云う強者まで出現している。もはや整骨業界の万国びっくりショー状態である。先週の佐助氏のブログの中で民間療法家の問題が取り上げてあったが、国家試験所持者の中でもこのような状態にあるというのが同業者としてお恥ずかしい限りである。餅屋が餅の味で勝負出来なくなってしまっているのである。
資格をとったばかりの20代前半の私はあまり賢い方ではなかったが、本来とても素直で正直者なので、この餅を売れない餅屋であることにえも言われぬ矛盾を感じていた。学校ではとにかく骨折・脱臼の整復こそ、柔整師の美学という教育をされて来たので、いざ臨床の場に出て来てみたら何も出来る事が無かった。そこで溺れるものはわらをもつかむで必死に手を伸ばし掴んだものが橋本先生の『論想集 生体の歪みを正す』だった。それから18年たった現在更に私達柔道整復師を取り巻く環境は変化し、養成校の乱立と、それによって引き起こされる柔道整復師の技能低下、いまやその評価亡くなった祖父達先人がひっくり返るような有様だ。勿論そのような逆境にあっても、真摯に柔道整復術に向き合い、現在でも素晴らしい知識と技術を習得されてある先生もおられる。そのような先生方には本当に頭が下がる。私には出来なかったが、素晴らしい柔道整復術を未来につなげていただきたいと思う。
また柔整業界としてもうひとつ大きな変化が始まっている。柔道整復師の介護業界への進出である。餅屋が棟上げ専用のイベント企画会社を始めたようなものだろうか。柔道整復師は看護士や理学療法士と同じく機能訓練指導員として介護施設等で日常生活を営むにあたって失われてしまった身体機能の改善及びその機能低下予防の訓練を指導することが出来るようになった。柔道整復師の方から予防医学に近づいて来てくれたのである。まだ不勉強なものでこの活動がどのようなものか理解出来てはいないのであるが、操体法の持っている予防医学としてのスキルが活かされるのであればとても興味深い活動であると思う。ここまで書いて来て猛烈な睡魔に襲われてしまったので、この先は明日のブログに続く。