東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

神経症11

 我々は本物の現象として生まれてくる。そして本物の現象であるためには、何の努力も必要としない。現実の自分のまわりに我々が築く殻は、フロイト学派の人ならばさしずめ「防衛機能」とでも呼ぶものであろう。フロイト学派では、防衛機能は人間に必要なものであり、最も強固な防衛機能を備えていることが健全で均衡のとれた人間であると彼らは信じている。しかしとてもそうは思えない。真実はまったくその逆で、無防備な人や非現実の自己と無縁な人こそ正常だと、私は思っている。現実的に言って、防衛力が強いほど、その人の病は重いと云わざるを得ない。すなわち、非現実の自己の要素が異常に強いからである。

 感じる能力を備えている現実の自己が抑圧されている典型的な例として、赤く熾っている炭火の上を歩くとか、針のベッドに寝てみせるとか、そういったアクロバティックなヨーギ(ヨーガ行者)に見ることができる。だが、これは決して宗教的な苦行などではない。そのようなヨーギーは肉体的な苦痛を感じないように、感覚を意識から切り離しているだけのことだ。それと同じように神経症の人間は、苦痛を和らげるために感情を完全に切り落としてしまい、もはや心理的な痛みを感じることができないようにしている。

 ときに神経症の人間が、自分自身を垣間見ることがある。病に伏せっているとか、休暇で非現実の自我の闘いに引きずり込まれるようなことが殆どない状態におかれると、自分自身の中へ投げ込まれてしまう。ときにそれは精神病的な症候につながることもありうる。すると、突然、無意識のまま動作を繰り返しているような「人間喪失感」や「奇妙さ」を感じることがある。この人格喪失感は往々にして現実の始まりなのであるが、神経症の人間は自分の非現実を信じているために、自分の現実の自己を何か異質な力と感じてしまう。一般にそうした人間は、慣れ親しんだ自分の非現実の世界に引きこもり、そのとたんに現実の自己を取りもどしたように感じてしまうのである。

 もしももう一歩踏み込めたら、もしも突き進んでいって自分の非現実性を確認できるならば、その人間は現実の自分を取りもどせるはずである。そこで神経症にかかった人間の場合には、現実の感情を伴った自己は、最初の苦痛を受けたときにしまい込まれてしまう。自分自身を解放するために最初の苦痛を感じる必要があるのは、このためである。苦痛の否定が非現実の自己を生みだしたのとちょうど反対に、苦痛を感じることがそれを叩き潰す。非現実の自己は二重の体系であるために、肉体は苦痛があたかも異質の要素でもあるかのように拒否するようである。このように衝動は常に現実を指向している。

 神経症的な両親は子どもたちが本物であることを何としても許そうとしないので、子どもたちは現実に到達するために迂回ルートをとることになる。すなわち神経症を選ぶのだ。神経症とは本物であろうとしてとる非現実的な方法であるにすぎない。非現実の体系は、肉体の状態も狂わせ、生成を阻害し、発達を止める。それは本物の内分泌系を抑圧したり、過度に刺激したりする。それは弱いさまざまな器官に不当な緊張を強い、周期的な「機能停止」の原因となる。要するに、非現実の体系は総合体であり、単なる特定の行動ではない。神経症だということは、全面的に現実ではないことを意味している。したがってすべての面で、スムーズに正常に機能できないことになる。神経症は正常と同様に、無限のものである。それは人間が行うすべての面に及んでいる。

 このような神経症の人間に、ただひたすら速くて深い呼吸を導いて、自分を駆り立てているさまざまな苦痛に直面させる精神療法がある。なぜそれが効果的なのかといえば、それは神経症の人間が、より強い感情をもっており、湧き上がってくる感情に対するもっとも基本的・自動的な反応が、からだを緊張させ、呼吸を抑制することだからだ。それが好ましくない感情に対するための効果的な闘いであるからだ。その感情は神経からなり、神経は呼吸を通じて流れている。だから、味わいたくない感情は、神経の動きを止める、つまり呼吸を止めることで、感じなくなれる。そして呼吸をほんの少しでも抑えれば、自分の中のあらゆるレベルで神経の動きを減少させるので、神経の「ボリュームを絞り、感情を意識している部分のスイッチを切ることができるからである。

 そこでひたすら呼吸を連続させ、出てくるあらゆる感覚をひたすら肯定するように導く。そういったブレスセラピーの中で現実の自己に加えられた最初の攻撃が新しい人間の状態、すなわち神経症を生み出すのとまったく同じように、非現実の自己に対する組織だった攻撃は、新しい性質の人間、すなわち正常さをもたらすことができるようになる。苦痛は内部に入り込むばかりでなく、外部へ出てくるものであるからだ。
明日につづく


2014年4月27(日)
東京操体フォーラムが開催決定!
会場は東京千駄ヶ谷津田ホールです。

「入眠儀式 快眠・快醒のコツのコツ」
是非お越し下さい。

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