東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

病気と心とからだの歪み⑤

昨日のつづき

 マイナスエネルギーをもった人たちの中には、実はもうひとつ別のタイプの人たちがいて、このタイプでは今までとはまったく逆に、からだのエネルギーが破壊的な力として表に現われてくることがある。まさに御嶽山のような火山に秘められた噴火力のように末恐ろしい。そんな人たちは比喩的に言って「壊し屋が動くと、きっと何かが壊れる」というような烙印をずっと押され続ける不幸な人たちである。壊し屋が動くと実際に何かしら壊れるのが見てとれる。

 たとえば車を運転すると、いくら慎重に運転したつもりでも、自分だけでなく他人にまで傷害をおよぼしてしまうことになる。仕事をすると、やりすぎてせっかくの仕事を駄目にする。休暇をとったときですら、せかせかと騒ぎまくり、とどまることを知らない。壊し屋はこのように、確かに元気に満ち溢れてはいるのだが、昨日述べた不活発な人々より病苦に対して抵抗性があるかというとそうではない。壊し屋がいったん病気に罹ると、ちょうど壊し屋がふだんの生活の中でとっていたのと同じような荒々しい反応が、病気に対しても起こってくる。とても高い熱が出たり、傷に不相応な跡が残ったり、わずかの骨折や炎症のあとにも大げさな骨の盛り上がりができてしまったりする。病気の初日に激しい反応が起こって、それでも健康が回復しないとなると、壊し屋はすっかり気力を失って、不活発な人々よりもむしろ弱くなり、ことによると命に係わることにもなりかねない。それはちょうど今まで盛んに灯っていたロウソクの火が、ロウが燃え尽きてあっという間に消えてしまうのに似ている。

 さて、このように哀れで不活発な、つまりマイナスのエネルギーを持った人々を救済する秘訣はというと、それは肉体や無意識の心の中ではなく、からだの無意識や意識的な心の中にこそその鍵がある。ということは、こういう人たちにいくら精神分析をやっても何の解決にもならないということだ。からだの無意識や意識的な心の中とは、具体的にいうと、からだの内なる声に従うことである。こうしてはじめて、ほとんど奇跡とも言える活力がつきはじめる。いったん内なる声を聴くと、心の力は肉体にエネルギーを注ぎ込み、こうして活性化された肉体において今度はそのエネルギーの余剰分を心に供給するという具合に、健康実現の螺旋階段を次々に登ってゆくことができるようになってくる。

 心とからだの感覚に委ねるというプロセスにおいて、心とからだの再統合の当然の結果として、治癒が達成されるわけである。生体内のエネルギーにプラス、マイナスという両極性があるとするヴェーダの考えに呼応して、古代インドの学者たちは人間の病気をプラスとマイナスに分類した。からだのエネルギーがプラスに偏りすぎた場合がプラスの病気であり、マイナスに偏りすぎた場合がマイナスの病気である。後にこの理論が中国に渡って、陰陽説や太極論を生むことになるが基に遡れば古代インドのヴェーダ学説にたどり着くだろう。

 では臨床の立場から、この病気の分類を眺めてみると、プラスの病気には、炎症から来るありとあらゆる病気が含まれる。そして炎症のある場所にはからだによるプラスの防衛反応が起こって、炎症のもとになったものを除去し、病気に打ち勝とうとする。ただ発熱は、からだが表わす反応のうちの最たるものであるが、この反応自身によって、からだのエネルギーをかなり消費してしまうことがある。高熱が出ると、からだがプルプル震えることはよく知られているが、これは筋肉の無意識的な収縮にほかならず、これによってエネルギーの極性はマイナスに転ずる。そうなると今度は炎症が慢性化してしまい、組織は変性し、細胞は活力が失われてゆくことになる。

 西洋医学の医師は、炎症からくる病気に対して二つの方法を用いる。ひとつは「解熱剤」、もうひとつは「抗生物質」である。ところが、ベテラン操体操者のレベルでは、動診と操法からなる自力的な誘導によって、炎症からくる病気を同じように克服することが可能である。操者はまず、動診で被験者にからだの感覚を聴き分けさせ、快なる感覚において快に委ね従わせる。これにつづく脱力では筋肉を徹底してリラックスさせることにより、エネルギーの浪費をおさえることができる。しかる後にからだの声に耳を傾けていると、からだに蓄えられていた内なる生命エネルギーをからだの炎症部分に集中させて、ヨーガ的に言えばそこを「超活性化」させてくれる。すると、しこたまエネルギーを注入された組織は炎症のもとになった物質を生物学的に分解するか排除する能力がぐんと高まる。ヨーガでいう「超活性化」の実体は、ことによるとからだの免疫力の増加にほかならないのかも知れない。

 ここで述べたプラスの病気の中には、アレルギーとか、コラーゲン病といったような組織細胞の過敏症や、心臓、循環器、神経系のリズムの失調症などが含まれる。トランキライザーなどの鎮静剤を用いないでも、操体では快適感覚を通じて、意識的に自分のからだの過敏な活動を鎮めることができると、私は信じている。

明日につづく


「2014年秋季東京操体フォーラム」 開催決定
今回は11月22日(土)23日(日)の二日間開催いたします。
メインテーマは「操体進化論」です。
特に、22日は場所の都合上、人数が限られておりますので
ご参加希望の場合はお早めにお申し込み下さい。
詳細は以下、「東京操体フォーラムHP」をご確認ください。
http://www.tokyo-sotai.com/?p=813