東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

足関節の背屈操法の回数について

膝の裏に手を差し入れて触診すると、患者さんは『いててててて〜っ』と痛がってジタバタする。
『ここが悪くなってんだな』
『首さ痛でぇのに何でここが痛でぇんだろなぁ』
『痛いですぅ』
『それじゃ、つま先をすぅ〜っとスネの方さ挙げてみて』
『はい、ポタッ』
『ほれ、痛でくねぇ』(膝裏の裏ぐりぐり)
(以上東北弁は1900年生まれ、橋本敬三先生とほぼ同年代で宮城県人の畠山の祖父、畠山三左ェ門を思い出しつつ。。ビデオやラジオで聞く橋本敬三先生の声って、何だか祖父を思い出したりします。)


おなじみの『足関節の背屈』(私は大昔、膝窩の圧痛硬結を取る操法なので、『ひかがみ操法』と習ったことがあります。。。。今ではそんな言い方はしてません)。


膝の裏の痛い圧痛硬結が、つま先を挙げてポタンと落とすとあら不思議!痛くないし膝の裏側がつきたてのお餅のようにやわらかくなって、あら?腰が痛いのも良くなった!


な〜んていう、風景です。


この操法には動診というものはありません。膝の裏を触診して、圧痛硬結をキャッチします。動かさないで触診して即操法にすすめるわけですからね。そして足首を背屈させて、その足背に抵抗をかけ、脱力させます。


本などを読むと、まるで一回でウソみたいに膝の裏の圧痛硬結が失せるように書いてあります。勿論、そういうこともあるのですが、それにはそうなる道理があるのです。その道理を知っているのが名人達人というわけです。該当者は少ないのです。なので、誰がやっても同じ、というわけにはいきません。


さて、ここで、万病を治せる妙療法・操体法 (健康双書)
など、主に農文協の『健康叢書』から出版されている操体法シリーズを見てみると「操法の回数は2回から3回」とか「2回から5回」と書かれています。
実は私が10年前に出した『ふわ、くにゃ、すとん 操体法』にもそう書いてあります。
何故かというと、そう習ったからです(笑)
勿論今は、からだの要求感覚に委ねた脱力を導いているのでそういうことはしていません。
(本の訂正箇所は、サイトに掲載してあるので、そちらをご覧下さい)


なお、快適感覚をききわけ、味わうとういう『第二分析』で行くと、操法の回数の要求(からだの要求ですよ)は、多くありません。


操法の回数と「きもちよさ」は反比例するのです。
つまり、うんと快適感覚を味わうような操法を十分味わえば、一度で十分なのです。しかし、例えば上のつま先をすねの方に持ち上げて、ストンと落とす場合、不快な感じはしないと思いますが、「からだが味わってみたいきもちよさなのか」と、といかけてみても「?」「わかんない。。。」というケースが多いのです。そのような場合や、単に『楽で何ともない』という場合には回数でこなすことになってしまいます。


それはさておき、世の中には橋本敬三伝説』というようなものがあります。例えば『橋本先生は操法を一度しかやらなかった』というものとか『一発で治った』というものです。


★この『足関節の背屈』に関して、橋本敬三先生は操法を一回しかやらなかった、という話を聞きました。(昨年の仙台での全国操体バランス運動研究会です)


しかし、そんなことはありません。昨年春のフォーラムで公開した、『よみがえる映像』でも紹介させていただきました。これは、70年代に虎ノ門ホテルオークラの「平安の間」で橋本先生がセミナーをされた時の映像です。


会場に集まった方々に声をかけて、確か『腕が上がらない人』だったと思います。勿論、腕が上がらない方だといって腕に触ったりはしません(さすが『症状疾患にとらわれない』ということを実践しているのです)。『何で腕が上がらないのに足をひねったりするんだ??』というオーディエンスの表情が面白くもあります。そこからいくつか動診操法をとおしてゆきますが、いわゆる『第一分析』。楽か辛いかの比較対照の分析をしてから、辛いほうから楽な方に動きをとらせます。この時『静かに、静かに』と誘導されていたのが印象的でした。
おそらく、長年の経験から『ゆっくり動いて』というよりも『静かに、静かに』と誘導した方が、初めての方や慣れない患者さんにとって分かりやすいということをご存じだったのではないかと思います(実際は『すんずかに、すんづかに』と聞こえます。懐かしい東北のおじいちゃんのしゃべり方なのです)。


肝心の『足関節背屈』、モデルは初老の男性ですが、なかなか脱力が上手く出来ません。橋本先生(熟練しておられる橋本先生がですよ)も何度かやり直しをさせて、4回目かそれくらいでやっと先生が納得できるような『瞬間急速脱力』に導けたのです。


★仙台の操体バランス運動研究会で『橋本先生は足関節の背屈の操法は一度しかやらなかった』という意見に対しては、三浦先生が挙手し、その映像のお話をされました。


橋本先生も一度しかされていなかったわけではない、ということをです。患者さんに操者が思ったとおりの急速瞬間脱力を導くのは大変なことなのです。


この映像はDVDに落としてもらい、完成品とノートパソコンを抱えて、三浦先生と一緒に見たのです。丁度このシーンは最後の方に入っているのですが、見終わってから三浦先生が少し考え込み、
『おい、見たか?橋本先生が何度も何度も患者に脱力させてたな』
と、つぶやきました。
『そうですね。橋本先生でも慣れない患者への瞬間脱力は苦労されてたんですね』と答えました。


操体というのは、見た目は非常に簡単に見えます。動かして瞬間脱力させればいいから(笑)
しかし、実は他人に自分がしてもらいたい、希望通りの動きをしていただくというのは非常に難しいことなのです。
操体を勉強しはじめた方々がまず直面するのは『患者さんが思い通りに動いてくれない』という問題なのです。


ここで改めて考えてみると、何故昔(第一分析時代)は、操法の回数を2回から3回、あるいは2回から5回としていたのか、分かってきます。


・瞬間脱力に導くのは操者にとって口で言うのは簡単だが、患者にとっては難しい
・なので一度でちゃんとできることはあまりない(だから2回から3回やっておけば何とかなるだろう?)


ということなのでしょう。


あと、もう一つの秘密ですが、きもちよさがあれば回数は一度(多くても二回)で十分なのです。なので、当時は「楽」をききわけさせる動診・操法をやっていたことが理解できます。




Hiromi Hatakeyama 畠山裕美




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