東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

構造力学と運動力学 続き

「何故動かして診ないのか」という三浦先生の問いかけを聞いて、感じたことがあった。
昨日、鍼灸学校において、特別授業で操体を2時間ほどやることもある、と書いた。私も実際その授業を受けたという鍼灸の先生の話を何度か聞いたことがある。たった2時間程度というのは本当に残念である。

膝窩には幾つかツボ(経穴)がある。膝窩にある「委中」というツボは、いわゆる「腰痛」のツボらしい。私達は膝窩(ひかがみ)の触診をするが、圧痛点硬結点がかならずしも経絡図に書かれた「委中」と一致するとは限らない。私は余り詳しくないが、膝の裏には他にもツボがあるらしいので、そちらなのかもしれない。
しかし「人間は動く」と考えれば、圧痛硬結の箇所が、膝窩の中で移動してもおかしくないのでは、と思うのだ。
ちなみに、膝の裏に鍼を打つのは結構痛いそうで、また「てこずる」ところだそうである。
それが、患者さんに痛い思いをさせずに、つま先を挙げさせて脱力させるだけで、膝窩の頑固な圧痛硬結が消えてしまうのだから、鍼灸の先生方が、操体に興味を持つのもよくわかる。
(実は『連動』の理論を用いれば、ひかがみの圧痛硬結を解消するには、足関節の背屈以外にも多々方法があることがわかる)
ところが、「足関節の背屈」と大抵一緒に行われる「膝の左右傾倒」や「伏臥膝関節腋窩挙上」(うつ伏せに寝て、膝を腋の下に向けて引き上げる)は「どこの経穴」に効くとか圧痛硬結が消えるものではない。どちらかと言えば、可動域が拡がり、運動痛が解消する。
鍼灸の世界では、余りにも経穴のみを重視しているのではないのか、という気もする(構造力学的)。
スポーツ鍼灸などもよく見かけるが「スポーツをする動くからだ」として診ているのだろうか、と思う事がある。この辺りはどなたかご存じだったらご教授願いたい。

ここまで書いて思い出したが、15年程前、都内の整体スクールで操体の講義を頼まれたことがある。
印象的だったのが、足関節の背屈を行って、膝窩ひかがみの圧痛硬結が解消した際、ある受講生が「ここが柔らかくなったからって、どうしたって言うんですか」という言葉である。翻訳すると「このツボが柔らかくなったからといって、どの症状疾患に効くんですか?」ということだ。
その後、膝の左右傾倒と膝関節腋窩挙上を行ったところ、可動域が広がったのをみて、同じ受講生が「すごいですね」と言った。スポーツトレーナーの方々は、筋骨格系には詳しいのだが、経絡的に全身を診るというよりはパーツパーツに偏っているような気もしないではない(運動力学的)。
橋本敬三先生の著書の中に、頭部に鶏卵大の疼痛を訴えるお婆さんがおり、全身をくまなく診たところ、足の裏に魚の目があった。魚の目が痛いのでヘンな歩き方をしていたようで、魚の目を削り、全身形態の歪みを調整したところ、頭部の疼痛が解消したという話がある。現代ならば、頭部のCTを撮るとか、痛み止めを投与するのだと思うが「症状疾患(現象)が起こっているところしか見ない」というのは、いささか危険である。
ちなみに、私の母も全く同じ症状を起こしたことがあり、足の裏を見たら魚の目があった。母の場合も、スピール膏を張り、全身を調整したところ、頭部の疼痛が解消したことがある。

構造力学からしか見ない
運動力学からしか見ない

これは非常に勿体ない。操体の特徴は、構造力学、運動力学の双方から人体を捉えているということだ。
そうやって考えると、三浦先生の治療所の屋号「人体構造運動力学研究所」というのは、スゴい名前だなと思うのだった。開業する時、三浦先生は橋本先生に「屋号はこれにします」と見せたところ「ずっと大事にしなさい」というお言葉をいただいたそうだ。
なお、外ではなく、治療所内に置いてある「人体構造運動力学研究所」の看板は、橋本敬三先生のご子息、橋本保雄さんが作って下さったと聞いている。

2012年秋季東京操体フォーラムは11月18日(日)津田ホールにて開催