7月末、兵庫県鍼灸マッサージ師会の夏季大学講座に、三浦先生のお供として行ってきた。
会員の鍼灸の先生方から、操体に興味があるという話があったのだそうだ。「操体とは?」という初学者向けの説明と、実技指導の依頼だった。
最初はアシスタント兼モデルのつもりだったのだが、直前になって、師匠から「前半をスライドで説明して欲しい」という依頼があったため、春のフォーラムで使った資料をベースに、鍼灸・マッサージ師向けに作り直した。三分の一は視力障がいを持つ方々と聞いていたので、できるだけ口頭で説明しようと考えた。
橋本敬三先生は、鍼灸の免許をもっておられたし、三浦先生が鍼の打ち方を習ったのは、橋本先生からだ。医道の日本誌にも昭和30年代頃から寄稿しておられた。鍼灸と操体は意外と昔からご縁があるのだ。
鍼灸学校の教科書にも操体が紹介されているが「楽なほうに動かして、瞬間急速脱力」という、第一分析が紹介されている。また、鍼灸の先生に聞いてみると、特別授業などで、数時間操体の時間が設けられていることもあるらしい。数時間であるから、仰臥膝二分の一屈曲位で足関節を背屈させて、脱力させるもの、同姿位で、膝を左右に倒し、倒しやすい方に倒し、脱力させるものなどの紹介にとどまっているようである。これでは臨床に活かせない。非常に残念なことだ。
私が説明の中で、三浦先生の「快からのメッセージ」から「鍼灸を用いなくても経絡治療はできる」という一節をごく簡単に説明した時、参加者の先生方の何名かが一瞬、驚いた顔を見せたのがわかった。
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その後、質疑応答の時間になった時、予想どおり、驚いた顔をみせていた若手の先生の一人が、「鍼灸を用いなくても、経絡治療ができるというのは、どういうことですか?」という質問をした。
「オレは怒りさえ覚えるよ」「何故、構造ばかり診て、動かして診ないんだ」「人間は動くでしょう」
経絡は、人体の構造力学に非常に詳しいからだの見方なのです。それは、主要経絡(12経絡)の原穴が人体構造上、四関に集中して存在していることをみれば明らかです。しかし、それでは経絡の変動は説明がつきません。この経絡の変動は、構造力学のみで発生するものではなく、運動力学的にも発生するのであって、東洋医学はこの人体の運動力学に対する認識に欠けている、といわざるを得ないのです。
経絡を包含するこのボディ(運動系)は、構造があって動く仕組みになっているにもかかわらず、東洋医学には動かして診断する、あるいは動かして治していこうとする動力学的診断や治療が存在しないのです。ここが鍼灸治療の盲点であり、診断と治療をむずかしくしている原因の一つに考えられているのですが、鍼灸治療にかかわっている当事者には、その認識があまりないようです。(快からのメッセージ 93ページ)「鍼灸治療」と「経絡治療」というのは同一に考えていいのか、それとも鍼灸治療と経絡治療には何か相違点があるのか、という点です。
本筋としては、経絡治療をおこなうために「鍼」や「灸」というものをもちいておこなうから「鍼灸」という名称になっているのでしょうが、もし「経絡治療をおこなう」というのが目的ならば、鍼とか灸をつかわずとも治療は可能なのです。それは、経絡を包含する運動系の存従と、この運動系のもつ「構造力学」と「運動力学」の二つの作用において
理解できるからです。『経絡現象』」の著者である藤田六郎博士は、著書の中でで経絡を「筋運動主因性流体波動通路系」と称し、その発想機構を「広義、運動力学を採用せよ」と説き、さらに「主要な経絡は歩行運動と密接な関係にあり、すべての筋肉が経絡現象に関与するという原則が成
り立つ」と述べています。
このことは、まさに操体でいう「経絡を包含する運動系の存在に注目し、経絡を運動系の歪みという異常から運動力学的に把握せよ」との内容に一致するのです。イノチあるものは形を有して動きます。経絡を包含している運動系を動力学的に動かして診る、さらに、動かして治すという診断・治療においては、経絡治療そのものが成立してしまうのです。
(快からのメッセージ 93〜95ページ)
質問した先生も、その他の先生方もぽかんとしていた。
その後、三浦先生は30年程前「医道の日本誌」に、「運動鍼」の概念を紹介したという話をしたところ(この場合、鍼を打ってから痛くないほう、あるいはきもちよさがある方向に動きを取らせるという「感覚」の分析も入っている)、「運動鍼というのもありますよ」という先生がおられた。私は鍼には余り明るくないのだが、調べてみると、鍼を打ってからある関節の動きを数度繰り返し、コリや張りを緩和するものらしいので、三浦先生が30年前に提唱した「運動鍼」とは異なると考えられる。
2012年秋季東京操体フォーラムは11月18日(日)津田ホールにて開催