東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

操体庵ゆかいや物語(24)

    
今昭宏先生に続いて一週間担当いたします佐伯です。おつきあいの程、宜しくお願いいたします。
今先生の心温まる文章のあと、直球しか投げられないガチガチのピッチャーが再びやってまいりました!
今までの暖かい雰囲気をいきなりぶち壊してしまうようで・・・・申し訳ありません。
今回は、超スローボールの連投めざして頑張ります!

東京生活も半年程過ぎ、世田谷の下町に馴染んできました。

「はい、いらしゃい!安いよ、安いよ」
「おやじさん、声に張りがなくなってきたね!」
「な〜に言ってんだよ、バカ」
こんな会話が心地よくからだに響くようになってきました。
そんな中、第1週と3週の日曜日をはさんで、土曜日、月曜日の合計6日間は、京都で操体施術を行っています。

「それ、よろしおすなあ〜」
「そうでっか」

このギャップが何とも痛快であります。
同じ日本でありながらこの響きの違いに、歴史・文化の大いなる差違を感じ、また古(いにしえ)と現在の都を行き来できる環境に感謝している次第です。

京都でのクライアントの中に80才を超えてなお現役女医の方がおられます(A先生といたしましょう)。このA先生から学ぶことがたくさんあります。
豊富な臨床経験と知識をお持ちであるにも拘わらず、施術の間、そんなそぶりは全く示されません。うぶな子供のような態度で私に患者として接してくださいます。
皮膚にはその人の生き様が映し出されるのでしょうか?つるつるとしていて張りがあります。

あるとき、逃避反応を診ようと、つるつるの肌をした三陰交あたりをいきなり触診したことがありました。
予想通りの反応があり、得心していると、
「私なら、いきなりそんな触れ方はしませんよ」
と目をつぶりニコニコ笑いながらおっしゃるのです。
そのときは、
「はあ〜、そんなものか・・・」
とあまり深くも考えず、ただ言葉をこころのどこかに仕舞い込んでいました。

ところが、鍼灸の専門学校付属施術所で、週1回施術を受ける様になり、A先生のおっしゃる意味が分かるようになってきました。
そこでは、施術者が懇切丁寧に取穴、刺鍼の箇所を言葉で指摘し、指頭で確認し施術します。これは、施術者として当たり前の行為であり、身についていなくてはなりません。特に、初めての患者に対しては細心の注意を払わなくてはなりません。
患者の立場になって、ようやくこのことに気がつき、未熟な施術をしていた自分自身に恥じ入ったのです。

こんな学びの場である京都施術では様々なことが起こります。
つい先日のことです。

「ゴメンなさい、急にゆるりのお手伝いをすることになったので・・・・明日は申し訳ないのですが・・・」
「そうですか、はい、分かりました」

という明日の施術、ドタキャンの知らせ。
ここで出てくるゆるりとは、私の友人・梅棹マヤオ、美衣夫妻が経営するレストラン。ご自宅の茅葺き民家を昼食限定、完全予約制にしている素敵な空間です。興味のある方は下記のホームページをご覧下さい。


            ー葺き替え中のゆるりー

            http://www.umesao.com/
ゆるりの手伝いなら仕方ありません。空いた時間をどうしようか考えていたとき、「急患で申し訳ありません。明日、診ていただけないでしょうか?」とメールで予約が入ってきました。不思議なものです。

そこで翌日、その方(Bさんといたします)を診ることになりました。
Bさんは、20年間食堂の店長をされていた50才後半の女性。過去に椎間板ヘルニアの手術経験があり、今回は3日前にぎっくり腰。私にとって初めてのクライアントです。

仕事を辞め、新たに保育園で保育士の補助をし始めた矢先に、腰をひねってしまったようです。
「また、手術をしなくてはならないと思うと・・・涙がでてきて・・・」とかなり落ち込んでおられます。

立位で、前屈が全くできず、左側屈をすると右腰背部に痛みが走るといった状態。このようなクライアントのからだは、動くこと拒みます。その場合は、皮膚に問いかける渦状波(第三分析)の操法が効果的です。なお渦状波に関しては、操体臨床の要妙 三浦寛著―たにぐち書店 222ページを参照して下さい。

        ー施術を行った大徳寺・玉林院の茶室ー
まず一番楽な姿勢になって戴きます。Bさんがとった体勢は伏臥位。気になったのが、右足の足底。血色が良くありません。そこで、ゆっくりと触診していきます。すると足底の最陥凹部、経絡でいうと湧泉(ゆうせん)のところ、それから第4趾中節骨に逃避反応がでるほどの圧痛点。

そこで、この2箇所に皮膚に問いかける渦状波を10分ほど。圧痛点消失。
その次は、仰向けがいいとのことで、仰臥位。両膝1/2屈曲位にして膝の裏を触診すると、ゴリゴリするほど大きな硬結。また腓骨とアキレス腱の間にも圧痛点。この2箇所に渦状波。7~8分。硬結が緩み、圧痛点も消失。
今度は、横になりたいとのことで、左肩を下にして側臥位。胸椎の5番、6番、7番の並びが悪く、全てに圧痛点があります。とくに第6胸椎。
そこで、第6胸椎に渦状波を10分程度。胸椎の並びが良くなりました。
最後は、側臥位のまま、首の周辺を触診。第2頸椎棘突起上縁の高さで、僧帽筋外側の陥凹部(経穴では天柱)に圧痛点があり、渦状波すること7~8分。
これらの施術時、からだ全体が温かくなり、軽い感じになったとの事でした。

ゆっくり起き上がって戴き、操法後の可動領域の変化や、痛みの有無を調べることにしました。
まず左側屈。右腰背部にあった痛みは消失、可動領域も大きくなっています。
続いて前屈。ところが痛みは相変わらずあり、前屈出来ません。
そこで、四つん這いになって戴き、ゆっくりと目線をおへそに通しながら、前屈姿勢をとって戴きました。
前屈姿勢をとると痛みを感じるのですから、当然

「あっ、痛った!」

そこで・・・・・・・・・とある操法を始めたのであります。
すると、
「あれ?気持ちいい」
今まで、「暖かい、軽くなった」などの感覚はあったものの、
「気持ちいい」という感覚・言葉は初めてでした。
10分くらいでしょうか、気持ち良さを味わって戴きました。この間、私の左手掌はBさんの腰の上。そのため腰内部からの動きが伝わってきました。美しい表現ではないのですが、まるでウジ虫の群れが這い回っているような、モゾモゾした蠕動運動。
ウジ虫の群れが退散してしまった時に、操法は終了しました。

もう一度、Bさんに起き上がって戴き、前屈してもらいました。
「あれ!?できる!」

多少、引っかかりはあるものの、前屈出来るようになりました。めでたし、めでたし。
さあそこで、私の取った操法とは?

残念ながらこれは、まだお教え出来ません。年内か、来年には操体臨床の要妙 パート2 三浦寛著―たにぐち書店 

が発刊されます。それにはこの操法が掲載されておりますので、興味のある方は是非とも購入されることをお勧めいたします。

また、今回のようにぎっくり腰で施術を受けられる方には、天然自然の法則である、身体運動の法則をお教えする必要があるのです。つまり、日常生活において、重心安定、重心移動をどのようにすればよいのか?そのことをお教えすると、
「そういえば、私、テレビを横になって顔だけ立てて見てるわ!」などど、日常生活の一コマ、一コマに向かい合うようになります。このことが、非常に大切。Bさんの第5~7胸椎の歪みは、横になってのテレビ観戦にあったようです。

そのためにも、操体施術者は皮膚に問いかける渦状波(第三分析)の操法以前に、身体運動の法則を自分のものにし、動きの操法である、第二分析を習得しなければなりません。
このことは、操体を勉強する上での原則であることを肝に銘じて於いて下さい。

やっぱり、直球を投げてしまった・・・と悔いる佐伯でした。
では またあした!


佐伯惟弘