東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

病気と心とからだの歪み③

昨日のつづき

 健康と病気について話を進めていく上で、ヨーガ論を無視するわけにはいかないので少し触れておきたい。古代インドの科学は、死体を解剖していろいろ調べるといったやり方には関知せず、むしろ生きた現象そのものを高度に且つ子細に観察して得た結果からのみ、人間を理解しようと試みた。そのバックには、全宇宙があって、人間はその縮図のひとつ、いわゆる小宇宙にほかならないという一元論的な考え方が存在しているからである。しかし、ヨーガが神経生理学的な点で現代医学の知識によく似かよったところがあるのは事実だ。ただ、この議論においては、あくまで考え方の類似性、機能的な仮説の類似性についての考察であって、解剖学的に同一であるとか、生理学的に同じであるというわけではないことをお断りしておく。

 ヨーガの教えによると、頭蓋から尾骶骨に至る脳脊髄中枢神経系に沿って、目には見えない機能上のセンターが六個所あり、そこである種のエネルギーの出入りが行なわれるという。一番目から五番目までのセンターは脊髄にあり、六番目のセンターは脳にある。この最後の脳のセンターは、両眉のちょうど中間に位置していて、古代インドの科学者たちはこの部位を「超意識のセンター」と命名していた。これについては仏教寺院などで見かける仏教文明に起源をもった仏像の殆どすべてが、芸術的表現として両眼が上向きになっていて、ちょうど額に視線を集中しているように作られているのがわかるだろう。ヨーガ生理学でいうこれらの機能上のセンターのことを、サンスクリット語で「チャクラ」と呼んでいる。ごく大ざっぱな見方をすれば、チャクラは解剖学的に実態の明らかになっている自律神経叢のいくつかに相当している。

 そのような脳脊髄神経に沿って存在する六つのチャクラは呼吸、食物、太陽からの光や放射線等を通じて人間に達するプラーナエネルギー(生命素)を濃縮させ、再び放出させる中枢センターである。どのチャクラもプラスとマイナスの両極をもっているから、チャクラ全体が脊柱に沿って一種の電線のようなものを形成していることになる。ただしこの電線には、上のチャクラから下のチャクラへとプラスのエネルギーが流れ、反対に下のチャクラから上のチャクラへとマイナスのエネルギーが上昇する。ヨーガの教えによれば、このプラスのエネルギーの流れは「生命」をもたらし、マイナスのエネルギーの流れはそれによって営まれる「生命現象」を受け取り、それを維持する役目をするという。

 これについても、西洋医学のシンボルが、小枝に巻きついた二匹の小さな蛇であることは一般によく知られているが、それは、ここに述べたようなヨーガ思想をまさに象徴している。小枝は「生命の木」つまり脊柱を表し、二匹の小さな蛇はプラーナエネルギーの二つの流れ、つまり脊髄を上昇するマイナスエネルギーの「ピンガラ」と下降するプラスエネルギーの「イダー」とを表している。今日の生理学は、このヨーガ哲学の直感的知識が真実であることを実験的に確認しつつある。すなわち、からだの中で営まれている生命現象のすべては、電気的なポテンシャルのプラスからマイナス、またはマイナスからプラスへのさまざまな変動によって特徴づけられる。

 たとえば、神経線維、自律系のガングリオン(神経節)、筋肉等あらゆる組織細胞は、それが休止状態にあるときは電気的に中性である。それが活動の初期のステージにはプラスにチャージされ、後のステージにはマイナスにチャージされる。そしてまた短い休止期間が訪れると、その間は再び電気的に中性となる。この電気的なプラス相とマイナス相の存在はすべての器官が正しく作動するために必須であって、これに何らかの異常があるとバランスが崩れて、器官が正常に働かなくなる、たとえば、筋肉弛緩剤の多くは、いわゆる運動終板のレベルで電気ポテンシャルと干渉することによって、筋肉の緊張度を取り除いてしまう。また反対に、筋肉を電波であまり長いこと刺激すると、その筋肉は痙攣性の収縮を起こしてしまって、もはや筋肉としての働きをすることができなくなってしまう。

 古代インドの賢者たちは、生命とは基本的には一種の電気的な現象であるということを直感的に知ったばかりか、これからさらに健康についての実際的な結論までも引き出した。すなわち、健康とは、プラスとマイナスの電気的な力が「体性系」、「自律系」、「内分泌系」という三系統に沿って具合よく分泌し、それらの間でバランスがうまく保たれた結果であるということを、古代インドにおいてすでに知っていたのである。
明日につづく


「2014年秋季東京操体フォーラム」 開催決定
今回は11月22日(土)23日(日)の二日間開催いたします。
メインテーマは「操体進化論」です。
特に、22日は場所の都合上、人数が限られておりますので
ご参加希望の場合はお早めにお申し込み下さい。
詳細は以下、「東京操体フォーラムHP」をご確認ください。
http://www.tokyo-sotai.com/?p=813