ヨーガのチャンドラヴェーダー(月の気道である左鼻腔を中心にする呼吸)では、「ひだり理論」 に基づく左鼻腔を中心に行う呼吸法であるが、この時、同時にもうひとつ行われなければならないことがある。 それは五官のうち、「舌」 を使うことである。 口を軽く閉じ、舌先を少し巻き上げて、その裏側を上あごの左側につけて行うものだ。 このように五官のうち、「舌」 をコントロールすることをヨーガでは、「ナボームドラー(日常の秘された実践)」 といい、唾液を溢れるように湧き出させそれを健康につなげている。
チャンドラヴェーダーのように左鼻腔を中心に行う呼吸法において、このような 「ひだり理論」 に基づく舌の作法を行うことで、唾液が口中に溢れてくることになるが、ヨーガ経典によると、この唾液をそのまま飲み込むように説かれている。 唾液には、癌や老化を抑える酵素であるペルオキシターゼやパロチンというホルモンが含まれている。 この唾液の効果について、仙道では、「玉液」 や 「霊液」 と呼び、「唾液を飲むと、気の補給になり、老衰することはない」 とも言われている。
また 「舌」 をコントロールすることにより、舌が内蔵全体と繋がっているのを感覚できる。 舌先を少し巻き上げて、その裏側を上あごにつけると、内臓が反応して動いているのを感じるはずである。 舌は本来、内臓の一部であり、一体として繋がっているのに、普段は内臓から切り離して使っている。 それは一種の緊張状態を作り、その緊張を解くのが、このナボームドラーである。
「ひだり理論」 における 「ひだり側」 というのは、重心軸での利き足や生命素の通り道である左鼻腔だけではない。 五官という感覚器官のうち、「目」 や 「耳」 などの対になっている感覚器官にも、すでに述べたとおり、「左の道」 として 「月の気道」 である 「鼻」 と同じように、「利き目」 や 「利き耳」 がある。
視覚である 「目」 は病気を「診る」 や 「看る」 も 「見る」 につながる能動的な言葉だ。 ハタ・ヨーガのアーサナ(体位法)においては、目線をつけて呼吸と動きにつなげているが、操体でも、「重心の安定・重心の移動」 におけるからだの動きに目線をとおすことにより、意識をより意識づけるとともに、その動きの一つの目的でもある 「連動」 を促してくれる。 この目線についても当然、重心軸側の 「ひだり目線」 になる。
ただし、この 「目線」 であるが、正面についている実際の 「眼球」 のことを言っているのではない。 つまり、「眼球」 そのもので見るのではないということ。 それはちょうど目の裏側にあたる後頭部の奥に脳の 「後頭葉」 が位置しており、その左右の位置に 「視覚野」 という部位がある。 目から入ってきた情報をこの視覚野で処理して視覚情報として脳は認識しているのである。
そして、ここで言う 「ひだり目線」 というのは、目の裏側にある後頭部の左側の視覚野に 「目」 をイメージして、その 「ひだりイメージ眼球」 でもって目線を通すことなのである。 そうすることで、実際の眼球から視覚の意識が薄れることになり、眼球を動かしている筋肉や頸部の緊張も緩み、これに連動する上肢が滑らかに動くようになる。 「ひだり目線」 は、このようにすることで視野が拡がり、からだの動きも変わってくる。
「操体マンダラ」は2021年7月22日(木)海の日に開催します。