私の住んでいる神奈川県の山奥にはダムがある。
そのダムを見に行くのが好きだ。
そのダムの底は、数十年前まで普通の人達が暮らしていた村だ。
村一帯は、ダムを作るために水の中に埋まってしまっている。
道路は途中でダムの一部になり、水しぶきをあげている。
ガードレールは白さを失い、茶色く錆びて、蔓さえ絡んでいる。
不思議なほど、ダムの水の中が静かであまり流れがない。
そのせいか、ただ周囲の山に囲まれた緑の反射と、深くたまる
水の色合いで、美しいグリーンとブルーが混ざり合うだけだ。
ワタシの傍にも、たまに猿が近づいてくる。
猿に目線を合わせてはいけないので、さりげなく距離を取る。
ここのダム近辺は、猪もいるし鹿もたくさん出没する。
先日は、親鹿と小鹿の姿を、数メートル先の林で見つけた。
私は動かず、親鹿の眼光を見続けた。
30秒ぐらいお互いに向かい合っていた鹿は、林の中に入った。
山に行けば、人は動物になれる。
動物は動物界のルールがある。
それを忘れないために、その場所に向かう。