東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

息を止める

 呼吸を一時とめるのを「クンバカ」とヨーガでは云う。人は一日のうちで何度も無意識的に止息をしている。物を注意して見ようとするときは、誰でも自然に息を止めるのは、注意力が高まるからである。重いものを持ち上げるときも息を止めるのは、筋力が強まるからである。俳優は、ここ一番というときに息を止めて演技力をつくる。それを「つめる」と云っている。相撲もここぞというときに息を止めて、金剛力を出している。それを「おし」と言い馴らしている。

 この止息というものを訓練することによって健康度が高まる。吸息によって十分肺が膨らんだ時に止めると、肺胞七億が一斉に脹らんだままになる。畏縮しがちな肺胞が、これによって十分拡張することを覚えるので、肺活量が増し、酸素の吸収力が上がってくる。
 特に、高血圧、心臓、癌、神経痛といった疾患は、決まって酸素欠乏症といえるので、止息の訓練によって肺活量を高めると、必ず好転するものである。
 酸素が乏しくなってくると、からだよりも先に脳がやられる。大脳がやられて思考力が鈍ってくると、間脳以下の自律神経が侵されて血循が止まる。これが難病といわれるものの素因である。脳はからだと比較してはるかに小さいが、恐ろしい酸素消費者である。酸素は脳の食物であるが、同量の筋肉の十倍も要求してくる。

 止息は酸素の吸収力を高めるというのは肉体に関してではあるが、精神力発揚のためにも偉大な貢献をしている。脳に酸素が満たされると、注意力が高まるので今までわからなかったことが忽然とわかるようになってくる。注意力は決断力をつくり、意志力は忍耐力をつくる。いわば実行力の人をつくる、とヨーガで教える。

 重いものを持ち上げようとして、ギックリ腰になったというが、重いからではなく、止息が足らなかったのである。腰を十分に後方に引き、腹に力をこめ、相撲の「おし」の要領で持ち上げることである。


日下和夫