東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

腹で息をする

 人間は立って歩くので腹部に血が滞りやすいが、動物は横に歩くからこの心配はない。そして、人間は頭も使うから重心が上に上がり、本来的に行われている腹式呼吸が肩式呼吸に変わってしまう。そうすると腹部に血が集まり過ぎた結果、その血が渋滞して流れないと、血液が腐敗しはじめて腹がまず犠牲者になる。あらゆる胃や腹の病気は、これが主因である。特に、腸は最も腐りやすいので腐敗は腸から始まる。
 「転がっている石は苔つかず」とか「流れている水は腐らず」とか「どんな汚物でも三尺流れればきれいになる」と昔の人は教えてくれている。腐った血液であっても流れの軌道に乗りさえすれば、新鮮さを取り戻すことができる。伝染病の毒菌でも、流れている血液の中では、繁殖できない。恐れなければならないのは伝染病菌ではなく、血液の淀みである。
 ここに腹式呼吸の必須性がある。吸うときに下腹部を突き出すようにして、吐く時には下腹部を背中の方に引き締め、ヘソが背中にくっつかんばかりになるのである。特に注意しなければならないのは、吐くときに肛門を必ず引き締めなければ、効果は激減するばかりか、痔になったりする。下腹を引き締めて腸の血を追い出しても、肛門を強く引き締めておかないと、そこへ濁血が追い詰められて痔になるのである。
 人間は直立歩行するので肛門は胴の最下部にくるが、動物の肛門はむしろ胴の上部に位置している。この絶対の相違を無視できない。肛門が緩んでいると痔や便秘だけではなく、胃腸疾患や脳血管の諸症状まで引き起こすことにもなる。
 吐く時に下腹部を背中の方に引き締めるのは、横隔膜を上げ、吸うときに腹を突き出すというのは、横隔膜を下げるためである。呼吸は胸部と横隔膜との二つの働きであり、胸郭を拡げただけでは意味がない。努めて横隔膜を圧し下げるように工夫することが必要である。これは腹式呼吸が酸素吸収にも役立っており、血循をよくすると同時に血質もよくなるので、この腹式呼吸だけで多くの疾患に効果がある。
 人間は頭をよく使うが、その頭脳と腸とは直結しており、腸の内出血が右側に起こると、脳の右側に内出血が現れるのである。腸患部と脳患部とは対照していることから、右半身不随の患者は、反対側の左脳の内出血からきているので、必ず左腸にも疾患がある。腸が悪くなると、頭が悪くなるというのはこれである。文明が進むと人間は頭脳を使うがために、腹にあるべき重心が肩にまで昇っていくことになる。それゆえ、現代人は意識して重心を降ろすように心掛けないと心身不安定に陥ることになってしまう。肩に重心が上がれば、怒りたくなくても怒るようになり、心配したくなくても心配するのである。習慣として日頃の腹式呼吸にしたいものである。